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ていうか、もしかして、背後にある棚のファンタジー感あふれる道具たちは万道具なのか? そうなのか? 見分したい。ストーリーパートで使われるらしい、キャラのイメージアイコンがついていた万道具は図鑑でぐりぐりと3Dのモデルをいじって見ることができたけれど、おまけ要素なのであろう万道具はドットのアイコンだけだったから……。
目の前の男が、わたしを生まれ変わらせてくれたのか、それとも誰かの体にわたしの意識なり魂なり、そんな感じのものを植え付けたのか、何かしらわたしにしたのは確実だろうし、非常に怪しいのだが、警戒心はどこかへと消えてしまった。好奇心の容量が多すぎるのだ。
「透――いえ、あの男のことは、一生忘れたままでいてくださいね。二度と知らないでいい。……あいつだけ、幸せにさせてたまるものか」
……なんだか、メチャクチャ低くて怖い声が聞こえてきた気がするが……うん、気のせい! 気のせいっていうことにしとこ! 触らぬ神になんとやら、だ。わたしは万道具を眺めるのに忙しくて気が付かなかったということで。
男は満足したようにわたしを見ると、「それでは」と軽く会釈をして立ち去った。
わたしも軽く会釈して、男が立ち去るその背中を見送る。
そして、一人きりになったところで、万道具を見ようと手を伸ばし、はっと我に帰る。
いや、見送っちゃダメでしょ!
この世界について、なんの説明ももらってないじゃん! 多分『黎明のアルケミスト』の世界なんだろうな、っていう心当たりはあるけど、これからどうすればいいのか全く分からない。ここがどこかも分からないし。レジっぽいものもあるし、陳列している万道具には値札のようなものが添えられているから、店だとは思うんだけど。誰の、どこの店だよ、ここは。
こんなところに、ぽんと放り出されても困る。店主が帰ってきたら、わたしが泥棒だと勘違いされてもおかしくない。
せめて最低限でも説明していってくれ、と、慌ててわたしも外に出てみるが、男の姿はそこになかった。
やっば……。どうしよ……。
途方にくれたわたしは、振り返って家を見る。……ここ、『黎明のアルケミスト』のヒロインの家じゃね? ゲーム内の背景で見たことがある。
ということは、もしかして、ヒロインに会えるのかも……!
ストーリーパートに興味はなかったけど、会えるなら見て見たくない? 喪ルケミストと言えど、『黎明のアルケミスト』のファンであることには違いないのだ。わざわざ登場キャラを探して会う根性はないけれど、すぐそこにいるかもしれない、というのなら流石に話は別。
ここで待っていれば会えるか、それともこんな時間だからもう寝てるか、と店から様子をうかがおうとして――店の窓ガラスに映ったわたしの姿を見て、びしりと固まった。そして、ぱ、ぱ、と頭や体を触って見れば、ガラスにうっすら映った女もわたしと全く同じ動きをする。
――いや、ヒロインわたしやんけ!?




