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 病院で目が覚めたわけじゃない。どこかよくわからない場所でしゃがみこんでいる。

 あたりを見回せば、なにやらファンタジックな道具っぽいものが並ぶ棚と――誰かの脚。

 スライドするように、そのまま脚の持ち主の顔を見ようと頭を上げれば、そこには眼鏡の奥の紫の瞳を細めて笑う、顔のいい男性が立っていた。あんまりパッと華やかな雰囲気はないが、イケメンの部類に入るだろう。


 え、この流れ、異世界転移!? 今流行りの!?

 ってことはこの人が……。


「かみさま……?」


「…………」


 男の人が少し固まった気がする。笑顔のままだけど、呆れのような雰囲気を感じた。なんでそんな考えに至るのか理解できない……とでも考えているのだろうか。


 なるほど、神様ではなかったか。

 だとすると、召喚士というか、魔術師というか、そういうたぐいの役職の方だろうか。

 困惑するわたしをよそに、男はこの場を立ち去ろうとする。わたしは慌てて男のズボンの裾を掴んだ。……その手に、ちょっとした違和感を覚える。


 女の手ではあるのだが、妙に手荒れがひどい。わたしの手、こんなだっけ? 違かったよね……? 手荒れは酷いけど、指長いし、爪の形もきれいだ。わたしの、手じゃない……?

 思わず裾を手放して、まじまじと手を観察してしまう。見れば見るほど、わたしの手じゃないように思えてきた。


 慌てて服装を見れば、とんでもねえコスプレ衣装を着ていた。なんだこの、着物ともロリータとも言えない、中途半端なデザインは! 生地だけはしっかりしているから、安っぽくは見えないけれど、何かのアニメか漫画のキャラクターのような恰好をしている。


「――目的は達成、すっかり忘れてしまったようですね」


 混乱しているわたしを他所に、頭上から満足そうな声が聞こえてくる。顔を上げると、男はにっこりと笑っていた。さっきまでの、呆れたような笑みじゃない。

 純粋に、嬉しい、というそれだった。


 ……これ、もしかして異世界転移じゃなくて、異世界転生!?

 謎のタイミングでわたしの意識が浮上したのは不可解だが、この体がゲームを買ってウキウキしながらショップから家へと帰路についていたわたしの者ではないことが分かる。さてはわたし、あの事故で死んだな!?


「全部忘れてくれてありがとうございます。やはり、モリムラサキは食べさせるに限りますねえ。本来の使い方より、ずっと早く、多くのことを忘れてくれる」


 ――モリムラサキ? どっかで聞いたような……いや、どっかじゃないでしょ!


 モリムラサキと言えば、わたしが死ぬほどハマっているゲーム『黎明のアルケミスト』の素材の名前じゃないか? え、ここ『黎明のアルケミスト』の世界? マジ? もしかして、万道具、作ったりしちゃったり、できるんじゃない?

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