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「な、なんの記憶を消そうと言うんですか……? あ、きょ、今日見た万道具の研究内容とか? だ、駄目ですよ、見られたくないようなものを展示しちゃ」


 違うだろうな、と思いながらも、少しでも時間を稼ごうとして、わたしはぎこちなく笑う。あはは、と乾いた笑いは、すごく情けなかった。


 ――そして、その、無理に笑ったわたしの口の中に、紫司馬が花袋の中身をねじこんだ。


「んむ!?」


 口の中に、苦味と酸味の強い、地獄みたいな味が広がる。モリムラサキは食べたことのない食材の一つ。と言うのも、微量ながら毒性のある素材だったからだ。胸やけを起こすとか、消化不良を起こすとか、死に至るような毒ではないけれど、安全な食べ物でもないので、好奇心で素材を食べまくっていた時期に、わたしはモリムラサキを避けていた。


 そういうわけで、モリムラサキって、食べさせるものじゃないんだけど!?

 正しいモリムラサキの花袋の使い方は、花袋を忘れさせたい記憶を持つ対象へ常に持たせ徐々に記憶を失わせるか、花弁を一枚焼いてその煙を吸わせるか。

 花一つ食べさせるなんて、とんでもない。


 珍しい万道具ゆえに正しい使い方を知らないのか、と思い、口から吐き出して使い方を教えてやろうか、と口を開こうとして――紫司馬に首をつかまれた。


 あごを持ち上げるようにか、上の方へ力が行くようにつかまれているため、わたしは強制的に上を向かされることとなる。口に含んでいたモリムラサキは、必然的に喉奥へと落ちていく。

 首を絞めて殺そう、という算段でないことは、掴まれた首にかかる圧でなんとなく分かるものの、紫司馬が首を絞めれば死んでしまうことは確実だ。


 死。


 パッと、夕刻の赤がフラッシュバックした。

 死にたくない。死にたくない。――死にたくない!


 わたしはごくり、とモリムラサキを飲みこむ。すると、ふ、と首から紫司馬の手が離れていく。わたしは思わずその場にへたり込んでしまった。

 モリムラサキの花袋の使い方としては間違っているし、モリムラサキ自体にたいした毒性はない。後でトイレから出られなくなるかもしれないけど、死ぬこと、は、な――――。






「えっ、ここどこ?」


 わたし、さっきまで普通に道路歩いてなかったっけ? 確か、そう、今日は新作ゲームの発売で……浮かれてて……。帰り道だというのに、レジ袋の中にあるゲームを何度も見たりして。だから、周りが見えてなくて――突っ込んできた車に気が付かず、接触した気がするな!?


 わたしは慌てて手元を確認する。……ない! 折角かったゲームが、ない!

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