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 気が付くと、わたしは家に帰ってきていた。靴を脱ぐつもりだったのか、玄関に座ったままだった。いつここに来たのか、いつから玄関に座っているのかは分からない。

 でも、少なくとも夜中であることは、なんとなく分かる。灯りもつけないままで、辺りが真っ暗だからだ。


 照明くらいはつけないと、と思っても、指先に力が入らなくて、現実感がない。気持ち悪さだけがわたしを支配して、どこかふわふわしている。

 透くんは、ここにいなかった。わたし一人。わたしを送ってくれた、ような記憶はあるけれど、本当にいつ、どのタイミングで分かれたのか、全く思い出せない。ずっと、ここに一人でいるような気すらしてくる。


 ぼーっと、玄関を眺めていると、なんとなく、現実感がなくなってくる。

 少し角度は違うけれど、経営パートと分岐する前のシナリオパートでみた、主人公の家の玄関。生まれ変わってからずっと、いままで暮らしてきた家のはずなのに、急激に平面的に見えてくる。


 ――ゲーム。


 現実感を得られないわたしの頭に浮かんだのは、その言葉だった。

 ゲーム。――乙女ゲーム、『黎明のアルケミスト』。

 あれは正規の話なの? それともイレギュラー? 本編をプレイしていないわたしには判断が付かない。

 姫鶴ならきっと分かるだろうが、今聞ける状況じゃないだろう。


「――うぇっ」


 急に吐き気がしてきて、わたしはえずく。気持ち悪い。

 万道具の知識があれば、この世界で問題なく生きていけると思った。

 けれど、ああも『人の死』に近いものを見てしまうと、一気に怖くなる。


 以前、ちょっともったいなかったな、なんて思ったときの比じゃないほど、わたしは本筋のシナリオが未プレイであることを後悔した。

 知っていれば、あの惨状を回避できたかもしれない。

 姫鶴が、ゲームの台詞だとパッと判断できるくらいやりこんでいた人間なのだ。経営パートをやりこんだわたしと合わせれば、何かしらの解決策を見つけ出すことが出来たかもしれない。


 でも、現実は違う。


 わたしは一からシナリオの説明をしてもらわないと内容を理解できない。今、この状況でも、ゲームとどのくらい差が開いていて、どのイベントに近いのか察することができない。いくら、もはやゲームとは違う方向に進んでいて、わたしが生きる現実だとしたって、この世界のベースは『黎明のアルケミスト』なのだ。作中で語られていることが何かの解決策になる可能性は高い。


 馬鹿みたいに万道具を量産できたって、今のわたしは、無力だ。

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