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容赦ないな! かなりバッサリとした言い方である。彼女にとっては青慈以外の男はどうでもよくて、友人枠の赤希たち以外とは違って、完全に初対面で、しかも今後関わることもないような男に優しくする気なんてさらさらないのだろう。
もうちょっと角が立たない言い方をしてもいいと思うんだけど……と思ったけれど、わたしはそれを口にしない。一回で諦めてよ、と思ったのはわたしも同じだからである。
しかしナンパ男は諦めない。
「いいじゃん。この時間で女二人ってことは二人で行くんでしょ? なら男二人女二人で丁度いいじゃん」
「ちょっ……!」
しかも、わたしのほうが押せばなんとかなると判断したのか、わたしの手首を掴んできた。振りほどこうにも結構がっちりと掴まれていて全然駄目だ。
何が丁度いいだ。全くもってよくない。
「人を――」
呼びますよ、と言いながらまた手を振りほどこうとしたところで、すかっと一気に手ごたえがなくなった。
気が付けば、わたしの腕は自由になっている。
「――なにしてるんですか?」
気配もなく、いつの間にか透くんがわたしの傍に立っていて、わたしの手首を握っていた男の手をひねり上げていた。
普段見たことないくらい、透くんが怖い顔をしていてぎょっとした。そんな顔できたのか、君……。
「大丈夫ですか、万結さん」
でも、わたしの方を見る彼は、パッと表情を変えた。いつもの、少し困ったように笑っている彼の表情そのものだ。変わり身早い。
「あ、うん、大丈夫、です。はい」
思わず敬語になってしまう。透くんって、こんなにしっかり怒れる人だったのか……。
普段わたしを怒るときは、大抵、ぷんすこ! とでも効果音をつけたくなるような可愛らしい怒り方か、母親が説教してくるような怒り方をする人だったから、意外だ。……もしかしてわたし、結構甘やかされてる?
「ええと、わたし、彼と一緒に後夜祭行くので、諦めてください」
わたしがそう言うと、男は「チッ」と舌打ちをして、透くんの腕を振りほどこうとして――情けなくも、そのまま腕を振るだけの結果になっていた。
「何か言うこと、ありますよね?」
「――す、すみませんでした!」
機嫌悪そうにしていた男たちだったが、透くんの圧に負けて、情けない声で謝罪をしてきた。
謝ったことに満足したのか、透くんが手を放すと、男たちは一目散に逃げていく。その一人の手に、くっきりと痣が残っていたのを、わたしは見てしまった。
いつも優し気にしている人が、本気で怒ると怖いって、本当なんだな……。




