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「というか!」
ポケットに小瓶を仕舞った姫鶴は、びし、と効果音がつくんじゃないかってくらい、いよくわたしに指を突き付けてくる。
「貴女、いつまで私に敬語なわけ? 別に敬語キャラってわけでもないでしょう?」
唐突な言葉に、わたしは目をまたたかせた。
「でも、姫鶴はお客様ですし……」
「もう縁提灯は納品されて、お金も払ったでしょ! ……それとも何、客とは、と、友だちになれないって言うの?」
ちらちらと、目線を泳がせながら姫鶴がそんなことを言ってくる。
友だち。
考えたこともなかった。
どちらかといえば、姫鶴は前世を同じ国、世代で過ごした仲間、という認識の方が強かったから、友だちと考えたことがない。
でも、こうやって文化祭に招待してくれたり、遊びにいったり、果ては一緒に買い物へ出かけたり、ということを考えると、もう十分に友人といって差し支えない関係ではないだろうか?
「……いや、そんなことない、と思う。――ううん、これからは友だちってことで、よろしくね」
わたしがそう言うと、姫鶴がパッと顔を明るくした。今更、友人かどうかを明確にして口に出すような年齢でもないけれど、まあ、それを言うのは野暮ってものかな。
「――おねーさんたち、今、暇?」
会話が一段落すると、それを見計らってきたのか、なんともまあ、チャラそうな男性二人組がわたしたちに声をかけてくる。姫鶴が冗談で声をかけてきたときの文言ににているけれど、今回は本当に知らない二人組。黎明学園の制服を着ていないから、招待された一般客なんだろう。
「俺ら後夜祭のチケット持ってるんだけど、良かったら一緒に行かない?」
「あ、いえ、わたしたちは自分の分があるので結構です」
姫鶴が持っているかは知らないけれど、わたしと透くんにチケットをくれた湖黒の様子からして、彼女は彼女で持っているのだと思う。姫鶴を誘えなかったから、湖黒は運営委員の仕事のシフトを後夜祭の時間帯にも入れたんだろうし、だからこそ、わたしたちにチケットをくれたのだと思う。
まあ、仮に持っていなかったとしても、正直にそれを話すつもりはない。話したら断る口実がなくなってしまうので。
――しかし。
「あ、そうなの? ならそのチケット使って一緒に行こうよ」
ナンパ男はしつこかった。
姫鶴はライバルヒロインポジション、という悪役令嬢なだけあって、キツいタイプの顔立ちであっても美人だし、わたしは今日、そんな姫鶴が見繕ってくれた服を着て、それに合うだけの化粧をしているから、それなりに美少女に扮している。
顔だけ見れば、放っておくのはもったいないんだろう。
「一緒に行く相手もいるに決まってるでしょ? 一回断られたんだから引きなさいよ、みっともない」
けっ、と言い捨てるように姫鶴が言う。追い払うように手を振ってすらいる。




