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学園内の展示を一通り見て、食事をして休憩をし、適当にぶらついていれば、すっかり夕方である。後夜祭が二部編成、ということもあって、あと一時間くらいもすれば一部ステージが始まる。
まだまだ賑やかな学園ではあったけれど、流石に昼間に比べたら人は減ってきたように思う。後夜祭ステージは、招待制の文化祭の中でも、さらに限られた人間しか手に入れられないチケットが必要みたいだから、後夜祭ステージに行かない招待客たちはそろそろ帰るんだろう。
そんな中、わたしは一人、さきほど透くんと集合場所に決めていた時計のところに突っ立っていた。いや、断じてまたはぐれた、というわけではない。単純に、徹君がお手洗いに行っているので待っているだけだ。
こういう場でのトイレってすごく混むし、下手にトイレ前で待ち合わせするよりは、トイレを使いたい人たちの邪魔にならないかと思って、ここを集合場所に選んだ。
――と。
「おねーさん、一人?」
声をかけられて、わたしは振り返る。台詞こそ、安っぽいナンパのようだが、声は完全に姫鶴のものだ。
案の定、姫鶴がちょっと悪戯っぽい笑みを浮かべて立っていた。すでに屋台の店番は終わったのか、朝見た割烹着風の制服ではなく、黎明学園の女子生徒服に着替えている。
「もう、なんですか、その掛け声は」
「あはは、暇そうに立ってる万結が見えたから、つい。本当に一人なの?」
姫鶴に聞かれ、わたしは素直に透くんが席を外していることを伝える。迷子ではないことを念押して。
「あ、透さんって言えば、さっき見たわよ! 手、繋いでたでしょ。進展したの?」
手を繋いで屋台の並びを歩いていたところを姫鶴に見られていたらしい。まあ、朝寄ったからと姫鶴いる屋台に行かなかっただけで、姫鶴の屋台もあのエリアにあったはずだから、見られていてもおかしくはない。
「進展ってなんですか? あれは迷子防止のためですよ」
「……本気で言ってる?」
さっきまでにやにやしてた姫鶴は一転して、呆れたような表情を隠しもしない。
「いい歳なので、迷子防止に手を繋がなくてもいいかなって思ったんですけど、その……まあ、一回、はぐれてしまったので」
「だからって、迷子防止って手を繋ぐ? いい歳なのに」
「いい歳で迷子放送かかる方が恥ずかしいですよ」
わたしが反論すると、「恋愛下手にも程がある……」と姫鶴は頭を抱えてしまった。恋愛下手ってなんだ。迷子防止で手を繋いだくらいで……。
「普通、私たちくらいの年齢になると、手を繋ぐのって特別なことになるのよ」
「恋愛的な意味でね」と念を押すように姫鶴に言われて、わたしはそう言えば朝方は変に透くんのことを意識してしまっていたということを思い出した。万道具を一杯見てきて、そんなことを考えていたのはすっかり忘れた、なんて、今の姫鶴にはとてもじゃないが言えない。また怒られるのが目に見えて分かる。
わたしは少し焦りながらも、話題をそらそうと決める。元より、姫鶴に丁度用事があったのだ。そちらを済ませてしまおう。
「今日は招待状、本当にありがとうございました。これ、お礼です」
そう言って、わたしは小瓶を鞄から取り出し、姫鶴に差し出した。




