08
一通り満足そうに語った姫鶴は、やり切った! という顔をしていた。
「本当に青慈のこと好きなんですねえ」
「ガチ恋勢だって言ったでしょ。……まあ、今はそんなこと関係なしに好きなんだけど。そういう貴女こそ、やっぱり万道具しか興味ないのね」
うーん、後半の惚気を聞き流していたの、気がつかれていたか。
わたしは別に、恋愛に興味がないというわけではない。
どういう熱量であれ、一人の人から心から愛される、ということに憧れはある。自分という人間を、一生共にありたいと思ってくれる相手はどんな人なのか、という興味だってある。
ある、にはあるのだが、やっぱり他にもっと優先順位の高いものがあって、そこに至るまでの過程がめんどくさいと思ってしまうのもまた事実だ。
縁があれば恋愛を経験してみたいが、わざわざ縁を探しに行くだけのことではない、と思ってしまう。
そういうスタンスだから、恋愛ゲームは向かなかったのかもしれない。あれもわざわざ行動を起こさないといけないわけだし。
「店長、お話中すみません。あの、修理の依頼が来たんですが――」
「あ、ごめん!」
随分と話し込んでしまったようだ。控えめなノックと共に、透くんの声が聞こえる。遮音鈴は内部の声を外に漏らさないようにする万道具だが、外からの声は聞こえるのだ。
――っと、そうか、遮音鈴使っているから、返事をしても向こうには聞こえないか。つい反射で返事をしてしまった。
結構話し込んでいたのだろうか。話に夢中になっていて、営業時間中だということをすっかり忘れていた。
「すみません、姫鶴。わたし、店に戻らないと……」
「ああ、いいのよ。というか、私も話し込んでごめんなさいね。……私も、青慈たち、そのままにしてしまったし、店員さん、気まずくならなかったかしら」
「大丈夫だとは思いますけど……」
なんだかんだ、透くんあんまり他人に興味ないみたいだし。一度身内だと思うとすごくなつっこいんだけど、そうじゃなければ結構ドライだ。仕事と割り切っているだろう。しれーっとしている彼の姿が簡単に想像つく。
「店内で怒鳴って悪かったわね。でも、これから転生者同士、仲良くしてくれると嬉しいわ」
「ええ、こちらこそ」
わたしたちはどちらからともなく、握手を交わした。
この世界に不満を持ったことはないけれど――わたしがかつて生きた世界が妄想ではなく、ちゃんと存在したのだと、自分以外に証明できる人間がいるのは、とても、嬉しいことだ。