62
「店長?」
透くんにもう一度声をかけられてびくり、と肩がはねた。それはもう、大げさなほどに。変な声を上げなかったことを褒めたいくらいに、派手に驚いた。心臓の音が意識しなくとも分かってしまうくらい。
考えていたことが口から出てしまうのでは、と思ったけれど、流石にファンタジーな世界でも、話さないと伝わることはない。
「え、あ、あの。うん、えっと、店外だし、今日休みだし、別に、店長って呼ばなくても……」
それでも、大したことでもないのに、変に反応して、恥ずかしくなってきてしまった。咄嗟に口から出た言葉も、もごもごとしていて明瞭なものじゃない。余計に恥ずかしくなった。
これは普通に気まずいぞ、と恐る恐る彼の顔を見上げると、彼もなぜか赤くなっている。
「……じゃあ、万結、さん」
照れくさそうに、それでも笑顔で透くんは言った。
そんな顔をされれば、わたしだって、意識せずにはいられない。
――いや、姫鶴に、透くんはわたしのことが好きだ、と言われてから、結構、彼のこと考えっぱなしだけれど。透くんの一挙一動を意識してしまって仕方がない。
ついこの間まで、なんとも思わなかったのに。勿論、彼はしっかり者で働き者な、優秀な従業員だから、元々、す、好きではあったけど。でも、それは絶対、男女の色恋ではないのは確か。人間として好き、ってやつよ、うん、そう。
「――と、透くん、何か食べよう、お腹空いた!」
本当はそんなに減っているわけでもないけれど、誤魔化すようにわたしは屋台に視線を向ける。
なんだか縁日を思い出させるラインナップ。文化祭なんて似たようなものか。
「いいですよ、何食べます?」
わたしの言葉に透くんは賛同してくれる。
何か食べよう、と言い出した手前、何でもいい、はちょっと言いにくい。かといって、あんまりがっつりしたものはな……。苦し紛れに出た言葉だから、本当にお腹が空いているわけじゃない。ちゃんと朝ごはん食べてきたから、多少は物が入るスペースはあっても、一食まともに食べられない。
迷っていると――わたしは見覚えのある横顔を見つけた。
「姫鶴!」
とある屋台の一つ、店番に姫鶴がいた。ちょうど食べ物の屋台みたいだし、彼女のところにしよう。屋台のノボリには、『小金焼』と書かれていた。前世では、大判焼きとか、今川焼とか、呼び方に地域差があるアレのことを、この世界では小金焼と呼ぶ。形もちょっと小判っぽい。味は大判焼きなんだけど。
「来てくれたのね、万結!」
普段の、黎明学園の制服姿とは違い、割烹着っぽいエプロンと、ワンピースのような袴を着ている。文化祭の出し物用の衣装らしく、他にも同じデザインの服を着ている人が奥の方で作業しているのが見える。




