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――そして、文化祭当日。
しつこいくらいに姫鶴に念を押されていたわたしは、姫鶴に選んで貰った服を着て、姿見の前に立っていた。
鏡に映るわたしは、普段からは考えられないような恰好をしている。立ち絵だったら、非常に作画コストが高くなっているだろうな、と思わずにはいられないほど凝った服。それに合わせて、普段のお出かけメイクより手を入れた化粧。
こうやって見ると――どうにも、こう……気合が入り過ぎている気がするのだ。
普段は化粧をしないわたしだが、それはあくまで、『どうせ万道具を製作していたら落ちるから』『むしろ物によっては化粧品との相性が悪いからつけていたくない』という理由からであって、毛嫌いしているわけではない。一日家にいるけど気分を上げるためにメイクをする! というほど好きなわけではないが、出かけるときくらいは普通に化粧をする。
でも、それは、いつもわたしのためだけにしたもので。
こうして、誰かのためにおしゃれをする、ということに慣れていないので、なんだかやりすぎな気がしてしかたがないのだ。……服を選んだのは姫鶴だけど。
元の体が『ヒロイン』という一級品だからか、ちょっと手を加えるだけでかなりの美少女ができあがるのに、結構頑張ってやった結果、すごいことになっているのである。中身はともかく、外側は元がよすぎるのだ。
その結果、こんな感じでいいのだろうか、とわたしは柄にもなく、緊張しているのである。あと三十分もしないで、透くんとの待ち合わせなのに。
学園に行くのなら通り道だから、と迎えに来てくれることにはなっているから、ギリギリまで家に居られるけど、着替えるならさっさと着替えないと、いくら何でも時間が足りない。
これでいいの!? 大丈夫? 変じゃない?
脳内の姫鶴に問うてみるが、彼女は親指を立てたまま、何も言ってくれない。そりゃあ、この服を選んで、絶対に着てこいって言ったのは他でもない姫鶴自身なのだから、彼女は肯定してくるに決まっている。
「――……大丈夫、だよね。うん、大丈夫、大丈夫……多分」
わたしはぐるぐると落ち着きなく、鏡の前を歩いては、姿見に自分を映してみて、おかしくないか確認する。
そんなことを繰り返していると、あっという間に三十分経ってしまったようで、呼び鈴が鳴った。――十中八九、透くんである。もう逃げる時間はない。
「ええい、知らん!」
わたしは全ての責任を、姫鶴に押し付けることに決めた。何か言われたら、でも姫鶴がこれにしろって言ったんだもん! って責任転嫁してやるのだ。
「――よし」
わたしは深呼吸を一つして、玄関へと向かう。結局、姫鶴に勧められた服を着替えないままに。




