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「つっっっっかれました……」
誰が想像できただろうか。あの後、商店街すべての服飾店に足を運び入れることになるなんて。
片っ端から店に入り、あれこれ服をあてがわれ、あーでもない、こーでもないとよく分からない指導を受けながら、数着の服を買うことになった。しかも合わせるアクセサリーも選んだし、何故かついでにと下着まで一緒に購入することになった。
いや、確かに服を買うとは言っていたけど。こんなに紙袋をいくつも持つ羽目になるなんて。姫鶴も何個か紙袋を持ってくれているが、ほとんどわたしの荷物である。
こんなに着ないからいらない、と言っても、「全部着るまで透さんとデートしてきなさい」と言われる始末。結局押し切られて馬鹿みたいに買ってしまった挙句、ほぼ一日を服選びに使ってしまった。
今はくたくたになった体を休めるべく、定食屋に来ていた。甘味でも、という話にならなかったわけじゃないが、お腹がすき過ぎてがっつり食べたかったのだ。時間的には甘味処のがふさわしいが、昼食を食べていないのでちょっとしたおやつだけでは絶対に物足りなくなる。
「流石にちょっと振り回しすぎたかしら……ごめんなさいね」
そういう姫鶴の顔にも、疲れが見える。
結構な数の衣類やアクセサリーを買い込んだので、今日はもうあれこれいろんな場所に足を運ぶ必要もないだろう。
「まあ、それなりに楽しかったですし……」
疲れたのは事実だが、楽しくなかったわけじゃない。友人と服を買う、なんて前世以来だし、人から勧められて服を選ぶのも懐かしい。
姫鶴は注文した料理より先にきたお茶をすすって一息つき――そして話を切り出した。
「で、透さんとはどんな感じなの」
「まだ続いてたんですか、その話……」
てっきり服を買い終わったことによってその話題は終わったと思っていた。
「……しょうがないじゃない、学園にコイバナするような相手、いないんだもの。友だちはいるけど、なんか話題にしにくいし……」
姫鶴曰く、学園の人気イケメンを独り占めしているように周りには見えるようで、あんまり友人が多くないらしい。人気イケメン、すなわち攻略対象のことである。
もちろん、中には姫鶴が青慈一筋であることを知ってくれている女友達もいるらしいが、やっぱり学園内で大っぴらに話すのは気が引けるそうだ。
「どんな感じって言われましても……従業員ですよ、彼は」
「それにしては親し気じゃない? 個人経営だから従業員との距離は近くなるだろうけど」
限度ってあるでしょ、と姫鶴は言う。
「……まあ、透くんは幼馴染でもあるので」
わたしが店を継ぐより前からの関係なのだ。彼とは。




