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よく徹夜でクマをこしらえるし、休憩時間で昼寝するとよだれを垂らしてしまうこともあるし。ぼさぼさに跳ねた髪を押さえつける様に一つにくくっているだけの姿を何度だって見られている。
万道具の作成、修理をしている姿なんて、作業のしやすさ最優先で可愛さのかけらもない。
好きになる要素、なくない?
わたしはそう思ったのだが、姫鶴はそう思っていないらしい。ガッと肩をつかまれ、熱弁された。
「人間、誰がどこを好きになるかなんて決まってないのよ。くだらないことでも、些細なことでも、好きになっちゃうときは好きになるし、好かれることもあるの」
彼女の言葉には、妙な説得力というか、力強さがあった。
「私だって、死にたくないから、そのためだけに行動してきたわ。確かに、まあ、ガチ恋最推しの青慈に多少の下心はあったけど……それでも、逆ハーになるのはおかしくないかしら? 私、一応ライバルヒロインなのだけど?」
実体験のようだった。それじゃあ、確かに説得力もあるわけだ。そしてすっかり興奮しているようで、ぽろっとライバルヒロイン、って言っちゃってるし。まあ、先ほど姫鶴が大声を出したからか、なんとなく避けられているようで、周りに客はいない。ぼそぼそと呟くような彼女の言葉が聞こえるのは、わたしくらい近くにいないと無理だろう。
「それに、ここは前と一緒じゃないのよ! 和風ではあるけれど、全然違うの! 未婚率はすっごく低いし、結婚してないと変な噂立つかもしれないんだから」
学園へ入学しないなら出会いは減るし、その年で許嫁がいないなら逃がさないようにしなさい! と彼女は息巻く。
前、とは、言わずもがな前世のことだろう。それに関しては、わたしだって重々承知している。店のために結婚しておいたほうがいいかなって考えるくらいだし。
そう考えると、すぐ傍にいる結婚適齢期の透くんが手頃、っていうのには一理あるけど、彼にも選ぶ権利があるしなあ。劇的な出会いを求めていないのだか、身近にいる異性を結婚相手に選ぶのは現実的だが、透くんもそう思っているとは限らない。
姫鶴からしたら、透くんはわたしに好意を持っているように見えるらしいけど……。透くんは確かにわたしを好きでいてくれると思うけど、それって本当に恋愛的なものなの? 全く分からない。
「――と、に、か、く! 服、買うわよ!」
姫鶴は、並べられた服の中から、わたしに似合いそうなものを選んでいく。まあ、服の一枚くらい、増えても困らないかな……とは思う。服に無頓着過ぎて、結構収納スペースは余り気味だし。
――そう考えたのが、楽観的であることを、この後私は思い知らされることとなる。




