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散歩――散歩か。
時間帯がちょっとアレではあるけれど、黎明学園からの距離を考えると散歩の範疇なのかな。
「貴女の方は残業ですか?」
わたしが片手に持っていた修理道具を見て判断したのかもしれない。
「残業っていうか……。透く――うちの従業員の湯浴炉が壊れたっていうんで、ちょっと応急処置に」
「――へぇ」
優しいんですね、と紫司馬は言ったけれど、なんかちょっと本当にそう思っているようには見えない。タダ働きする馬鹿、とでも思われているんだろうか。
元より、万道具が大好きで、関われればなんでもいい、みたいなところがあるから、タダ働きな気分ではないんだけど。
いや、彼が本当にそう思っているとは限らないけど。なんというか、紫司馬、考えていることがよく分からないんだよね。ミステリアスキャラ、とでも言えばいいんだろうか。
攻略キャラの傾向を見ると、確かに隠しエンドのキャラがミステリアスな雰囲気を醸し出していてもおかしくないな、と思えてしまう。今の彼らは、転生者である姫鶴によってすっかり変わってしまったが、元々のキャラを考えると、ミステリアスというか、怪しい雰囲気のキャラはいなかったように思う。
「よければ送っていきますよ」
「ええ? 大丈夫ですよ、すぐそこですし」
本当に歩いてすぐなのだ。全然一人で帰ることができる。
……というか、話題がないから一人で帰りたい、ともいう。会話もなしに一緒にいるの、なんか気まずいし。
透くん相手だったら、一緒にいるとき無言でも気にならないけど、他人だとそうもいかない。なんかこう、妙な間が気になってしかたないんだよね。
姫鶴みたいに話が盛り上がるのならいいけれど、特に会話することがない相手と黙っているのはなかなか苦痛。なんか気を利かせないといけない気分になるのだ。
「遠慮せずに。どうせ僕の帰り道でもありますし」
しかし、それが伝わらないのか――あるいは、伝わった上で無視されたのか。どちらなのか定かではないが、結局、押し切られて、紫司馬に家まで送ってもらうことになってしまった。
……透くんに送ってもらった方が良かったかな。
わたしはちょっとだけ、後悔した。
まあ、彼が風邪をひいてしまう方が嫌なので、紫司馬にからまれるという未来予知ができたとしても、同じように一人で帰ったに違いないけど。
――さっさと帰って眠りたかったわたしは、送ってもらってからすぐに家に上がって寝る支度をはじめてしまったから、気が付かなかった。
紫司馬が、わたしが家に入った後もなお、しばらくその場にとどまっていたということに。




