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 ぶつかったのは透くんの後頭部だろう。わたしの頭は痛くない。

 思わずつむってしまっていた目を開くと、床に横たわる彼の上にわたしが乗っている体制になっていることに気が付いた。


「怪我はありませんか?」


 そう心配してくれている透くんが近くて、わたしは思い切り「だ、大丈夫!」と目をそらす。結構長いこと、一緒にいたけれど、ここまで接近したのは初めてかもしれない。


「ご、ごめんね、今、どく――ったい!」


 慌てて起き上がろうとして、近くにあった棚に頭を思い切りぶつけてしまった。折角透くんが守ってくれたのに、結局は頭をぶつけている。馬鹿か、わたし。

 しかも、ついでに何かが降ってきて、頭に追撃を受ける。なんだこれ、写真立て?


 棚の上に飾ってあったんだろうそれを拾おうとして手を伸ばしたけれど、それよりも早く透くんがそれに素早く手を伸ばして、写真を見れないようにひっくり返した。


「……見ました?」


「ちょ、ちょっとだけ?」


 人が写っているのは見えた。でも、それだけだ。性別とか年齢とか認識する前に透くんが写真立てをひっくり返してしまったので、誰が映っていたかは分からない。というか、人数すら怪しい。写っているのは一人だけではなかったけれど、でも、何人映っていたか、というのは、あの一瞬では数えきれなかった。


「なんか、人が写ってるのは見えちゃったけど、詳しくは分かんないよ。人影があったなーってくらいしか見えなかった」


 そう言うと、透くんはあからさまにホッとしたような表情を見せた。他人に見せたくないものならわたしが来る前に隠せばいいのに、と一瞬思ったけれど、そう言えばそもそもわたしが来るつもりではなく、道具を借りに来たんだったな、と思いなおす。


 なんだろ、推しアイドルの写真でも飾ってたのかな。透くんのプライベートに踏み込んだことはあまりなかったから、彼が重度のアイドルオタクだったとしてもおかしくはない。めちゃくちゃ驚くけど。そんな雰囲気も様子もないし。


 そんなことを考えていると、急に廊下へと繋がる扉が開く。驚いて肩が跳ねた。


「ね~、大丈夫~? なんかすっげー音したけど、湯浴炉イカれたぁ? ……あっ、悪い」


 酒瓶片手に、先ほど声をかけてくれた女性が扉を開けたようだった。若干呂律の回っていない声音が、スッと普通に戻って、わたしは思わず自分の恰好を見直した。


 床に横たわっている透くん。

 そして、それに馬乗り状態のわたし。


 これは、完全に――。


「――ち、違います! 違うんですっていうかノックくらいしてください!」


 わたしが何かいう前に、透くんが声を荒げて必死になった。


「滑っただけですよ。透くんが受け止めてくれて、わたしが立ち上がろうとしたところです。透くんは貴重な従業員ですよ? 間違いなんて起こすわけないじゃないですか」


 わたしも一緒になって否定してあげたのに、扉の向こうの女性は「……なんか、ごめんね」と小さく言って、扉を閉めたのだった。

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