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「店長の手は確かに一般的な女性と比べて丈夫なのかもしれませんが、だからといって怪我をしてもいいわけではないでしょう?」


 今更傷が一つ増えようが増えまいが変わらない、と思っているのはわたしだけのようだ。


「……分かったよ。次からはちゃんと万道具で温度を計るから」


 わたしがそう言うと、少しまだ疑うような視線をこちらに向けつつも、透くんは手を離してくれた。

 ……自分で軟膏を作って手入れした方がいいのかな。あれ、作るのそこまで面倒くさくないし。材料を混ぜて一晩寝かすだけで完成する。


 帰ったら寝る前に――いや、こういう、自分を後回しにするところが、透くんに怒られるところなんだろうな。明日、店を開けているときに時間があれば作ろう。今日はさっさと休むべきだ。


「本体は壊れてないみたいだから、部品の取り換えだけで大丈夫だよ。明日、業者を呼ぶといいよ。あ、うちでも修理は受け付けるよ? ちょっと時間かかるから、あんんまりおすすめできないけど」


 暇なときならサクッとやってあげられるけど、生憎、修理依頼も製作依頼も、今日、たくさん舞い込んできた。

 多少前後することはあるけれど、基本的には依頼を受けた順番で、というのがうちの店のルールなので、透くんだけを優遇するわけにはいかない。今回みたいに、水が吹き出ているとか、放置するのが困難な場合の応急処置は、また話が別だけど。


 それは透くんも分かっているようで、「大丈夫です、ちゃんと別のところで修理依頼出します」と言ってくれた。


「じゃあ、わたしはこれで帰るね。……あ、うちのお風呂使う?」


「だっ、大丈夫です! 他の部屋の人のを借りるので!」


 一緒に入る? と言ったわけでもないのに、透くんは随分とひっくり返った声でわたしに言った。ええ……もしかして、これもセクハラに入るの? 難しいな。

 ちょっと気を効かせたつもりなだけだったんだけどな……と思いながらわたしは立ち上がって風呂場を出ようとして――盛大に滑った。


「うわぁっ!」


 わたしは思わず声を上げる。

 風呂場が濡れているのは当たり前だから、そこで足を取られるようなことはなかった。でも、風呂場を出てしまうと、濡れることを考えていない床材だから、滑る滑る。しかも、ちょうと結構な水たまりになっているところに足をつけてしまったらしい。


「あぶな――っ」


 咄嗟に透くんが抱きとめてくれようとするが、勢い余って彼も転ぶ。

 ごちん! と後頭部が床に当たる、派手な音が部屋に響いた。

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