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 透くんの住む家は、わたしの店兼自宅から歩いて十分くらいのところにある。ご近所さん、というには微妙な距離だが、なにかあったときにはすぐ行ける場所だ。


 一軒家が基本のこのあたりでは珍しいアパート。アパートというか、ルームシェアというか。

 トイレと風呂、それから個室は一人ひとりに与えられているが、キッチンとか洗面所は共同。元々、近所でも有名な大家族が住んでいた大きな屋敷を改装して貸し出している家らしい。

 このあたりは昔からの家を受け継いで住む人が多く、アパートが建っていないので、自分で家を建てるのではなく、部屋を借りて住むとしたらこういう場所しかない。


 アパートを借りるとしたら、わたしの店では徒歩で通えなくなる。一応、バス停は近いので、通勤手当は出す、と言ったのだが、何かあったときに駆けつけられないのは困る、と断られてしまった。

 心配性だなあ、と思いつつも、徹夜をしたりご飯を抜いたりしてまで万道具にかまける傾向のあるわたしとしては強気に反論できない。今日だって知らない間に寝ていたわけだし。

 今のところ、食事を抜きすぎてあまりの空腹に動けなくなって助けを求めたことくらいしかないけれど、急に体調を崩して倒れることも十分考えられるわけで。


 ……そのうち、生活を見直したほうがいいかもしれないな。透くんが結婚したら、わたしの面倒を見てもらうわけにはいかなくなるわけだし。

 わたしが男だったらまだ許されたかもしれないが、血のつながった家族でもない独身女の世話をする旦那とか、奥さん可哀想すぎる。


 そんなことを考えていると、あっという間に透くんの家についた。

 共同の玄関を開けて、靴を脱いでいると、玄関からまっすぐ伸びる廊下の奥の方の扉から、女性が顔を出したのに気が付いた。


「おかえり~! 愛しの店長には会えた~? 床が腐って抜ける前に応急処置だけしてね~~~」


 酒瓶を振り上げ、こちらに声をかける女性は、どう見たって酔っ払っている。随分と胸元がはだけているが、大丈夫か、あれ。


「ちょっ……、一言余計なんですよ!」


 透くんは声を荒げる。女性の酔っ払いぶりや恰好に突っ込まないということは、これが彼女の普段ということか。

 それにしても『愛しの店長』ねえ……。


「ちっ、違いますよ!? いや、間違いでもないんですけど、あの、えっと……!」


 慌てて弁解しようとする彼に、わたしは笑顔で「大丈夫だよ!」と答える。


「酔っ払いの言うことだし、真に受けないって。それに、愛しの、って言ったって、敬愛とか、そういう意味でしょ?」


「……っ、……っ。そ――そうです」


 透くんの、何故か絞り出すような声は、「だはははは」と大笑いする女性の笑い声の中でも、なんとか聞き取ることができた。

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