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ふ、と意識が浮上した、気がする。
あれ、わたし寝てた? いつの間に? ……違う、伝票の整理をしてなかったっけ? あれ終わった? お店、閉めたんだっけ? まだ営業時間?
どうにも思考がまとまらない。頭がぼんやりしていて、さっきまで何をしていたのかすら思い出せない。伝票整理と寝落ちしたであろう間の記憶がない。
動かなきゃ、まだ店がある。そう思っても、体が動かなかった。金縛り、というやつだろうか。
でも、頭は起きているのに、体は眠っている、という感覚というよりは、意識がハッキリしている、体が動かない夢を見ているような気分だ。限りなく現実に近い気がするのに、どこかでこれが夢だと分かっている、不思議な感覚。
たまに、こういう夢を見るときがある。決まって、起きたと思っても実際は目を冷ましていなくて、ただ『起きた』という夢を見ていただけ、みたいな。
この世界に生まれ直ってからは、あまり見ていない。この転生自体が夢みたいなものだからかもしれないけど。
それでも、この夢で、今、わたしが眠っているのは、『万結』としてのわたしが普段使う寝台の上。間違いなく、この世界が、今のわたしの現実なのだ。
いや、今は夢の中なんだけど。
なんとか起きれないだろうか、と体を動かそうと奮闘していると、さら、とわたしの頭が撫でられる感触がした。風じゃない。何度も、温かい手のひらがわたしの頭を撫でる感覚がある。
――誰?
わたしの頭を撫でるのは――じいちゃん? もう、頭を撫でられるような子供じゃないよ、と言い返そうと思っても、指一本動かせないのだから、口も動くわけがない。
「――――」
名前を呼ばれた気がする。じいちゃんじゃない、もっと若い男の人の声。じゃあ、父さん?
「――が守りた――、本人が――じゃどうしようも――」
父さん、とも違うような気がする。だって、父さんはもっと撫でるとき、豪快なのだ。乱暴、と言っても過言ではない。いつも髪がぐしゃぐしゃになっていたような記憶がある。幼い頃の話だから、確実なことは言えないけど、少なくとも、こんな風に、一定方向にそっと触れない。
――いや、そもそも、じいちゃんも、父さんも、もう、この世にはいない。じいちゃんは一年前、父さんはもっと昔に、死んでしまった。
じゃあ、誰だろう。
前にも、こんなことあったような……。
そうだ、確か、あれは薄暮の森へ探検に出かけたとき、原っぱで寝てて……。
そのとき、わたしと一緒にいたのは。
――透おにいちゃん?




