34
しばらくの沈黙の後、すう、と息を深く吸い込んだ姫鶴は、「まあ、いいわ」と言葉を吐き出した。
「誰が使っているかはこの際置いておきましょう。一番重要なのはどうやって帰るかよ」
確かに。今、犯人捜しや原因の追及を躍起になったところで、帰ることができなければ意味がない。犯人をとっ捕まえて現状をなんとかさせるのも一つの手段だが、他に方法があるのであればそちらの方が早い気がする。
「誰かに迎えに来てもらうのが一番ではありますけど……」
紛い香は、一度その香りを嗅いでしまえば、結構な時間、体に効果が出るものの、香り自体を長時間保つことは難しい。人の認識を歪める香りが発生するのは、長くても十分いかないくらいだ。
なので、香りを嗅いでいない、正常な人間に判断をゆだねるのが一番なのだ。
だから、攻略キャラが迎えに来てくれたことで、本編の『万結』は元の道に帰ってくることができたのだろうが……。
「下手に動かないほうがいいかもしれませんね」
誰かが迎えに来てくれるのなら、動き回るのは得策じゃない気がする。それに、本編で姫鶴が玄天川から澄清池へ落ちた、というのなら、今のわたしたちも同じようにして怪我をする可能性があるので、とどまっていた方がいいはずだ。
今のわたしたちは、崖を滑り落ちるのが帰るための正しい道だと判断してしまう可能性がある。
姫鶴も納得してくれて、わたしたちはその場に座り込んだ。
「……はあ、まさか、今イベントが起こるなんて。今までは、タイミング自体がずれることなかったのに」
やってられない、と言わんばかりに、姫鶴は膝を抱きかかえて、枕がわりに頭を載せていた。
わたしも彼女の隣に座る。そのとき、ふと、彼女のサイドポーチが目に入った。
「そう言えば、何か採集していたんですよね? 何を採ったんですか?」
課題に必要なものを採集していたはず。黎明学園で出される課題と言えば、万道具に関するものだろう。それなら、ものによっては何かに使えるかもしれない。姫鶴が紛い香を嗅いだ前に採ったのか、それとも既に紛い香の効果が出てから採ったのかで変わってくるとは思うけど。
「……何か作れるの?」
わたしの考えに、姫鶴も気が付いてくれたらしい。万道具に関しては、学園で勉強中の彼女よりも、既にゲーム本編でコンプリートしていて、転生してからも既に万道具を売る店の店主として働いているわたしの方が、知識はあるはずだ。
「見ないと分かりませんが……。採ったタイミングにもよります」
「いくつか青慈と一緒に採ったものがあるから、間違いはないと思うわ。そのときには青慈だけじゃなくて、他の皆もいたし」
なら大丈夫か。
わたしは姫鶴のサイドポーチに入った素材たちを見せてもらった。




