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学園に入学していない万結にゲームの強制力なんてない。
二人してそんな話をしていた直後、わたしたちは本編のイベントの一つに似たものに巻き込まれていた。
「あああ、こうなるのが嫌だから貴女に縁提灯を作ってもらおうと思ってたのに……!」
「そんな! 今イベントを消化したら結局縁金魚は扱えないじゃないですか!」
思わずこぼした叫びに、「今それどころじゃないから!」という姫鶴の鋭いツッコミが飛んできた。それはそう。
とはいえ、そんなに心配することもないのでは?
「学園でヒロインが起こすはずのイベントは、全部姫鶴の周りで起きているんですよね? なら、怪我をせずに帰ることができるのでは?」
肝試しイベントの詳しい内容は知らない。
わたしは、縁金魚を持ち込んできたときの姫鶴の話を思い出しながら、頭を抱えてしゃがみ込んでしまった姫鶴を励ます。少なくとも、『万結』も『姫鶴』も生きて帰ることができるイベントなようだし。
「とりあえず、イベントの内容を教えてもらっても? 今のわたしたちは協力しあえる立場ですし、きっと本編のようにはなりませんよ」
わたしの言葉に、姫鶴が恐る恐る顔を上げた。
「……肝試しイベントでは、『姫鶴』が万道具を使って、『万結』と攻略キャラとはぐれさせるの」
「えっ、どんな万道具ですか?」
本編でも万道具が活躍するのなら、本編もやっておけば良かった。
そんなわたしの考えを読み取ったのか、姫鶴が顔をしかめる。今そういう話をしていない、と言いたげだ。言葉にしなくても分かる。
流石に場違い過ぎたか。反省。
「……とりあえず、使ったのは、『紛い香』」
「ああ」
紛い香。偽物を本物だと誤認させる香りを放つお香だ。大体は、贋作の美術品や骨董品を本物だと騙して売る詐欺なんかに使われる。
なるほど、本来の肝試しルートではない道を本物の順路だと勘違いさせたということか。
「でも、学園生活をしていて、多少肝試しルートを反れたところで、学園内で迷子になることってそうそうないのでは?」
入学して数日、とかならまだしも、学園祭って、早くても二か月くらいは経ってから行われるものだろう。
不思議に思って聞いてみると「何言っているのよ」と姫鶴に言われてしまった。
「学園内で迷子になるわけないじゃない。肝試しはこの薄暮の森でやるのよ」
「……ひえ~」
区画によっては遭難者も出るような場所の夜の森で肝試しとは……。学生とはいえ、流石に考えなしが過ぎるのでは?
いやまあ、本編を知らないわたしには分からない話の流れと言うものがあるのかもしれないけども。




