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 湖黒の声に反応したのは、呼ばれた姫鶴ではなく、詩黄だった。


「えぇー、クロくんどうしたの? 今日、店番じゃなかったの?」


「お客様の欲しがった商品がないから採りに来たの。あとついでに次の実習の素材も採っておこうと思って。店は閉めてきたわ」


 自分から聞いてきたくせに、詩黄は、「そうなんだ」と興味なさげな声を上げた。あの顔、多分、姫鶴の相手が増えるかどうか、確認したかっただけなんだろうな。


「ついでって……いいの?」


 姫鶴が何か言いたげな表情をしている。

 前世が同じ世界だった彼女の言わんとしていることは分かる。開店時間中に店を閉めて、その上お客様と一緒に採集へ来ていて、挙句に自分の用事まで済ませてしまっていいんだろうか? ということだろう。


 前世だったら考えられないだろうが、今世――今、この世界ではそんなものである。あまりにもルーズ過ぎると信用を失うのは同じだが、客にかしこまった態度で接する人は少ないし、ちょっと店を開けるから一旦閉める、ということはそこまで珍しくもない。

 わたし自身も、透くんが出払っているのに、配達に行かなきゃいけなくて店を一時的に閉めることはある。


 ……というか、ついていきたい! ってごねたのはわたしの方だから、注意されるとしたら、それはわたしなんだよな。

 わたしは少し気まずい思いで目をそらす。それに気が付いたのか、姫鶴が「まあ、万結がいいならいいけど……」と呟いた。


「……そうだ! 問題がないなら、一緒に採集へ行かない? 次の実習の素材も採るっていうなら、玄天げんてん川の方に行くんでしょう? 人数が多ければそれだけすぐに素材を集められるわよ」


 名案! とでも言いたげな姫鶴だったが、赤希と詩黄は彼女とは裏腹に来るな、と言いたげな表情をしている。……青慈は、本命の余裕とでもいうのか、対して表情はあまり変わらない。名前の分からない青年は、どちらでも構わないのか、やっぱり表情に変化はない。ここで嫌がらないってことは攻略キャラじゃないんだろうか? いや、姫鶴が全員攻略キャラと懇意になっているとは限らないけど。

 赤希と詩黄の顔を見て引き下がる湖黒ではないらしい。むしろ、挑発するような、にっこりとした笑みを浮かべ「あら、いいわね」と言い放った。


「構わないかしら」


 断れ、という赤希と詩黄の視線を受けつつ、ほぼ決定事項のように言う湖黒にたいして、わたしは、「どちらでも」というしかなかった。

 一緒に採集できることに、素で喜んでいる姫鶴を見て、鈍感ヒロインか、と心のなかでひっそりと突っ込んだのだった。

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