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ここの店のものがよかったのだが、仕方がない。別の店を探すしかないか。質は劣ってしまうかもしれないが、ないとどうしようもないのだ。
なんとか気持ちを切り替えていると、湖黒は追い打ちをかけてきた。
「この辺りの店にクマクの種油はないと思うわよ。探せば多少はあるかもしれないけれど……どこも入荷できないって、皆言っているもの」
そんな馬鹿な……。確かに、素材によっては入荷がごそっとなくなることは可能性としてはある。クマクの種油は魚提灯を作るのに重要な素材ではあるが、他にも使い道は一杯あるのだ。別の業者が買い占めて、一般に出回ることがなくなる、というのはたまにある。
たまにある……けど!
何もこのタイミングで根こそぎ売り切れにならなくたっていいじゃない!
「ちなみに何を作るのかしら」
「……魚提灯」
「じゃあ無理ね」
湖黒はバッサリと切り捨てるように言った。魚提灯を作るときの量は『多少』ではないから、「多少はあるかもしれない」という時点で希望はなかったけれど、そんなにもはっきりとどめを刺さなくたっていいじゃないか。
こうなれば姫鶴に言って、何か別の万道具に変えてもらうしかないだろうか。類似品ならいくつか心当たりがあるし。
うう、折角、縁金魚を扱えるチャンスだと思ったのに……!
でも、ないものはどうしようもない。縁金魚……うう。
わたしが諦めようとした、そのとき――。
「お客様がよければ、今から採集に行ってきましょうか? アタシはまだ油に加工することはできないけれど、種なら取ってこられるかも」
アタシも課題に使う素材で、追加が必要なの、と笑う湖黒が光輝いて見えた。
種から油を作るのは少し時間がかかるが、やり方は分かるし、作ったこともある。次にいつ入荷するか分からないクマクの種油を待つよりはずっといい。
「あ……じゃ、じゃあ、わたしも一緒に行っていいですか? 欲しいもの、他にもいろいろあるので!」
折角ならばいろんな素材が欲しい。クマクのある森は一人で行くのは危ないが、それはあくまで何かあったとき、助けを呼ぶ人間がいないと困る、という話であり、採集の足を引っ張ることはない。
森だから、単純に迷子になってしまう、ということもあるし。遊歩道とかがないタイプの森なんだよね、あそこ。最低限の目印とかはあるけど。
わたしが客ということもあって、渋っていた湖黒だったけれど、ごねて一緒に連れて行ってもらうことになった。湖黒自身も、一人で行くのはまずい、という認識があったのか、結構簡単に折れてくれた。わたしが客じゃなければ、二つ返事で了承したと思うけれど。
あの森、入口の方ならともかく、奥の方は年間で何人か遭難者出るような場所だから、あまり一人でいくな、と言われるところだし。
久々に自分で採取に行くわ。昔は一人でよく森に入っていったけれど、一度大怪我をしてから、一人で行くことに祖父が嫌悪感丸出しの顔をするようになってから、行かなくなってしまった。祖父が死んでからは透くんがわたしを引き留める役をついでいた。
何があって大怪我をしたのかはあまり覚えていない。防衛本能が『忘れろ』と言っているかもしれないから、あまり深く考えるのはやめている。
まあ、でも、今日は一人じゃないから! 透くんだって、後で知っても怒らないだろう。
いやー、楽しみ!




