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「今度の――、えっと、今度、必要になるかもしれないから、欲しいのよ」
何かを言いかけて、ちらっと赤希や詩黄の方を見て、姫鶴は言葉を濁した。何のことかは正確には分からないけれど、ゲームの原作に関わるイベントに必要なんだろう。
なんとなく、姫鶴の表情は、言わなくても分かるでしょ、というものだったが、まったくもってさっぱりだ。
冗談抜きで、本編は全くやってないので分からない。仮に分かっても、学園に通っていないのだから、学園で起きるイベントが、今、原作だと、どのくらいなのかと把握するのは難しいだろう。
恋愛パートのゲームは、共通ルートとメイン攻略である赤希の最初の方だけしかやっていない。攻略キャラのルートを少し進めると経営パートも並行してできるようになるので、そこからは経営パートのみしかプレイしていないのだ。ちなみにメインキャラを選んだ理由は、キャラ選択の際に最初に出ていて選択カーソルが重なっていたから、という理由だけでしかない。未読スキップができないゲームだったから、ボタンを連打していたらいつの間にか赤希ルートをプレイすることになっていたのだ。
発売前の公開情報のプレイ画面で、経営パートがとてつもなく面白そうだったから買った『黎明のアルケミスト』。恋愛パートにはさして興味がなく、経営パートができるようになるまでボタンを連打していたらそうなったのである。
折角買ったゲームだから、一応、恋愛パートも後でやろうかな、とは考えていたのだが、経営パートをコンプしてからにしよ、と後回しにしていた結果、恋愛パートをプレイする前に死んでしまったのだ。
ちょっともったいなかったかな、という気持ちはゼロじゃないものの、経営パートを完璧にこなし、万道具の図鑑も完成させたので、悔いはない。
いざその世界に来てしまうと、本編情報が頭に入っていれば苦労しない子供時代を過ごせたのかな、と少し思う。わたしは姫鶴と違って、生まれてすぐ記憶を取り戻したわけじゃなく、転生を自覚するより前の記憶はあいまいだが、それでも現代日本との文化の違いに戸惑ったものだ。
今ではもう慣れてしまったが、ちょっともったいなかったかな、と思うこともある。
世界観を設定で知っている、というのではなく、シナリオ本編を知っていれば、よりこの世界を楽しむことができただろう。
今楽しんでいないと言うのは嘘じゃないけど。万道具作るだけでも十分楽しいし。
それでも、普通に学生してたら違う人生があったのかな、と思わないでも……。いや、でも、そうしたら、今みたいな万道具漬けの生活はできなくて、必要ないだろ、と投げ捨てたくなる勉強も卒業のためにしなきゃいけなかったのか。
……いや、別に今のままでもいいか。




