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ともあれ、わたしが言った、「その辺の万道具創師より、ずっと多くの万道具を作れる」という言葉に信用性が増したのであろう。
この後も、いくつか紫司馬は作るのが難しくて、しかも知名度の低い万道具の名前を上げていたが、わたしはそれに、全て、「作れる」と返事をした。
「納得した?」
わたしの言葉に、紫司馬は黙り込む。
考えているのだろう。わたしの言葉を信じて本当に自分が逃げ切れるのか、ということを。
「よ、万道具でなんとかしたって、バレるに決まってる!」
反論する紫司馬。しかし、その顔には、否定してほしい、という感情が、ありありと見てとれた。
なら――否定するしかない。
「万道具で、偽物の死体と偽物の情報を作る。そして、最後は――貴方も大好きな、紛い香を使えば完成だよ」
紛い香。
偽物を本物と思わせるお香。
わたしと姫鶴が偽物の道を本物の帰り道だと思い込んだように。
紫司馬が、殺したいという偽の感情を本物に思わせたように。
――紫司馬が死んだという偽の情報と死体を、本当だと思い込ませる。
「お香系の万道具は追加素材次第でアレンジしやすいものだしね。……雪ぎ香も効かないようなものを作れば、きっとバレない」
ゲーム内のアレンジレシピで、雪ぎ香が効かないパターンのものもあった。そして、それは現在、この世界では開発されていない。ゲーム内の万道具以外のものがあるからと言って、ゲーム内の万道具が全て完璧につまびらかになっているとは限らないのだ。
紛い香以外にも、明らかになっていない、ゲーム内だけの情報は、いくつかある。そして、当然、この万道具オタクのわたしが、検証していないわけがない。雪ぎ香が効かない紛い香の作り方も知っている。作り方が広まれば、紛い香の取り扱いが変わってしまうだろうから、広めるわけにはいかない。黙っているが吉。
そして、紛い香自体は、所持も制作も違法ではない。使い方次第では勿論捕まる。詐欺とかに使ったらそりゃ犯罪。
でも、死体っぽい置物を死体だと思い込ませるのは、犯罪じゃない。少なくとも、この国では。結構グレーなラインではあるから、やり方は気をつけないといけないけど。せいぜい、バレたときに悪戯だと怒られるくらいだ。……これで、紫司馬に保険金とかがかかってて、お金の移動があったらしょっぴかれるので、そのあたりの確認も必要だけど。
まあ、バレるつもりでやっていないので、きっと『紫司馬』は死んだままになるだろう。
「――……どう、わたしの話に乗ってくれる?」
紫司馬は、わたしの言葉にたっぷり悩んだ後――。
「本当に、逃がしてくれるんだろうな? 無理だったら今度こそ殺す」
――なんて、言った。
その言葉に、一瞬、透くんがぴりついたものの――わたしが万道具でやれないことなんて、きっと、ない。
前世で全ての万道具をコンプリートしたどころか、図鑑にないものまで作ってしまうような人間だったのだから。
「大丈夫に決まってるでしょ」
わたしは勝ち誇ったように、紫司馬に笑った。




