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 間に合った、という安堵感からか、それとも、間に合ったのに取っ組み合いが始まっては二人を止められなくなってしまうという焦りからか、考えなしにわたしは茂みから出てしまった。

 がさり、と大きな音が立てば、流石の二人も気が付いたようで、こちらを見てくる。


「ま、万結さん……!?」


 透くんはわたしの方を見て驚きに固まってしまう。紫司馬も驚愕の表情を見せていたが、透くんより我に帰るのが早かった。


「――、クソ!」


 透くんに襲い掛かろうとする紫司馬。それよりもわたしの方が少し早かった。――が、早かっただけ。透くんを紫司馬から引き離そうと引っ張ることには成功したが、受け身のことは何も考えてなかった。どちゃ、と情けない音と共にわたしは尻もちをつく。透くんは受け身を取れていたようなので、まあ、いいとしよう。


「どうして――ッ」


 ぎり、と紫司馬が奥歯を噛みしめる音が、こちらにまで届いた。歯がすり減って亡くなってしまうのではないか、というほど、強い音。


「と、透くんの、無事を、確認しに来ました」


 全力であちこち走り回って、その上尻もちまでついて、わたしの体力は限界を迎えたらしい。死に際か、と言いたくなるほど、か細い声しか出なかった。この状況で、洒落にならない例えだが。


「あ、あ、あ――ッ! クソ、クソクソ! 殺しておけばよかった!」


 頭をかきむしりながら悔しがる紫司馬の姿は、余裕ぶっているいつもの姿からは想像がつかないほどだった。


「何なんだよ、お前ッ!」


 涙目でこちらを睨む紫司馬。涙目で睨まれても怖くない、と言いたかったが、憎しみと殺意に染まった眼光は恐怖でしかない。子供の頃に刺されたときのことを思い出して、喉がひきつった。

 わたしの前に、透くんがすっと庇うように前に出る。でも、紫司馬は透くんの行動なんて目に入っていないようで、地団駄を踏むばかりだった。


「殺したと思ったのに生きててッ! そのまま遭難事故に見せかけて殺そうと思ったらなんとかしちまうし! 挙句の果てに、まだ透と仲がいいと来た! ふざけんな!」


 ――遭難事故。

 薄暮の森で姫鶴と一緒に迷子になったのは、彼の仕業だったのか。迷い香なんてもの、なんで常備してるんだ、と思ったが、彼の生まれを考えたら、そういうものなのかもしれない。偽物を本物だと思い込ませる紛い香。偽物の証拠を本物だと思ってしまう、という捏造のために。

 それとも――。


「――ッ、どうして、透ばかり!」


 ――殺したい、という、嘘の感情を本当だと思い込むために、彼自身のために紛い香を持ち歩いているのか、と勘ぐってしまうほど、透くんを見る紫司馬の目には、憎しみと殺意の中に、羨望が混じっている気がした。

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