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 とはいえ。

 この様子を見る限り、もう手遅れというか、なんというか。今更、ゲーム本来のシナリオに戻るのは不可能な気がする。ここからどうやってヒロインと詩黄の恋が始まるというのだろうか。

 恋愛経験の少ないわたしですら、よっぽどのことがないと難しいというのが分かる。

 結局、彼は、姫鶴が言っていた『万結』という女の顔を見に来ただけなのだろうか。

 そんなことを考えていると――。


「ねえ、人の心を思い通りにする万道具、売ってないの?」


 おっと雲行きが怪しいぞ。目つきも怖いし、詩黄というキャラは、あざと可愛い小悪魔じゃなくて、ぶっとびヤンデレキャラだったのか? 

 ……まあ、あるかないかで言ったらなくはない。

 直接人を操る万道具もあるが、この場合、青慈の記憶を消して、つけ込む方が手っ取り早いだろう。手っ取り早いというか、金銭的に、そっちの万道具の方が安いというか。


 しかし、そんな万道具は店に並べていない。

 人を操る万道具は存在するし、関係ない万道具も使い方によっては彼が満足のいく結果になるだろう。

 そして、わたしはそれを作れる。

 でも、売るかどうかは別物だ。


「……当店には、ありませんね」


 死も青慈も選べない、と泣いた姫鶴を裏切るような真似は出来なかった。後、そういう万道具は製作にも販売にも許可証が必要だ。……全部の万道具を作りたいので、製作の許可証自体は持ってたりするんだけどね。でも、販売するつもりはないから、販売の許可証がない。

 どっちにしろ、わたしは彼に、人の心を自由にする万道具を売ることはできない。


「なんだ、使えないの。じゃあ、もう用はないよ。じゃあね、ブス」


 こっちの気もお構いなしに、詩黄は言いたいことを言うだけ言うと商品を買わずに帰って行った。

 嵐が去ったようだ。……こんな用事で、わたしの夜長筆用の洋墨作りが駄目になったのか……。ちょっと、いや、だいぶ泣きたい。


「だ、大丈夫ですよ店長! あの人の好みに合わなかっただけで、その、店長は十分、かっ、かわいい人だと思います!」


「うん……ありがとね……」


 透くんのフォローをありがたく受け取る。お世辞でも、ぼろくそに言われた今では心にしみる。いやまあ、ヒロインを名乗るだけあって、確かに見た目はいいから、わたし。手入れをする中の人間が杜撰なので、綺麗に見えないだけで、造形は悪くないから。うん。


 しかし、あの様子、本気で姫鶴のことを気に入っているのだろう。

 先日の攻略キャラの様子を見る限り、姫鶴の死亡展開は回避できてるように思うが――しかし、なんだか別の危ないフラグが建っているように思えて仕方がなかった。

 大丈夫か、あれ。

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