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走りすぎたことによって、がくがくと震える脚で、息を整えながら黎明学園の門がある通りに近付く。昨日、殺人未遂があったからか、門の前には野次馬の人だかりができていて、話を聞けそうにない。守衛らしき人が対応に追われているから、もしかしたら中にこっそり侵入することもできるかもしれないが。
透くんが、今、家に帰ってきていないというのなら、彼がいるのはきっと紫司馬のところだ。だからこそ、紫司馬がどこへ行ったか知りたいのに。これでは誰かに聞くこともできない。
もっとも、あんな事件が校内であったのだから、学生のことを聞き出そうとしている人間に、そう簡単に情報を教えてくれるとは思えないが。それでも、紫司馬のことを聞こうと思ったら、ここに来るしかない。
紫司馬は、わたしを――透くんを傷つけるために、彼の近くにいたわたしを殺そうとした。でも、わたしは助かった。
多分、彼はそのことを知らなかったんだろう。
でも、わたしを薄暮の森で、再び見つけた。しかも、まだ、透くんと仲がいいままで。わたしが行方不明になったからと心配してかけつけてきて、必死な様子で抱き着いてきた透くんを見れば、昔の関係から悪化していないことなんて一目瞭然だ。
そんな彼が、わたしたちを見たらどう思うか。
昔と同じく、わたしを殺そうとするはずだ。
だからこそ、透くんは、わたしを守る、という約束を守るために、紫司馬の元にいったんじゃないだろうか。
もしかしたら、文化祭でわたしとはぐれたとき、紫司馬と二人でいたのは、わたしを殺すつもりがあるのかどうか、確認しようとしていたんじゃないだろうか。
そう、思わずにはいられない。
わたしの思い過ごしだったら、うぬぼれだったと笑えたのに、現に透くんは昨日から家に帰っていない。――彼の無事を、確認できていない。
透くんを一目見れたら、わたしの思い過ごしか否かがすぐに分かるのに。
嫌な予感と、焦りばかりが募っていく。
ここの門は駄目だ。どこか別の場所から中にこっそり入って姫鶴に会うか、もしくは話せそうな人がいないだろうか。これだけ広い学園なのだ、出入口が正門一つだけ、ということはないだろう。
人だかりの多い正門のある通りを抜け、わたしは他に入口がないか探す。
――と。
「おい、また生徒の脱走だってよ! 今度は二年の男子生徒で、紫司馬って名前だってよ」
「はあ!? またか? まったく、待機指示が出てるんだから大人しくしててくれよー……」
そんな話し声が聞こえてきて、わたしは思わず足を止めた。




