107
全てを思い出した今なら分かる。
あの日、わたしを刺して、泣きそうな顔で恨みつらみを述べていた男の子こそが、紫司馬なのだ。
透くんが、『黎明のアルケミスト』に本当に出るキャラだったのかは、知らない。しかし、紫司馬との血縁関係があったのは、確かだ。
顔がそっくりだったし、何より、わたしを殺しに来たとき、透くんの名前を紫司馬が出したのがいい証拠である。
一族のしがらみから逃げやがって。
紫司馬の言う、一族とは、やはり、暗殺を生業としているという、あれだろう。
透くんも、紫司馬も、暗殺者の一族に生まれながら、誰も殺したくなんか、なかったのだ。
逃げ切れたのは、透くん。
残されたのは、紫司馬。
祖父がどういう関係を持って、透くんを引き取ったかは、分からない。祖父が死んでしまった以上、知る術はない。でも、祖父は何かしらの手段を持って、逃げたがっていた透くんを助けたのだ。
そして、残された紫司馬が、憎さの余り、透くんを傷つけようとした紫司馬が取ったのは、本人を害するのではなく、周りに手を出す、という悪辣なやり方。
そして、それに巻き込まれたのがわたし。
仮にわたしが生き残っても、記憶を消して、透くんとの関係をリセットさせようとしたという、用意周到っぷり。まあ、紫司馬の憶測とは裏腹に、当時のわたしと透くんは、今ほど仲良しでもなかったのだけど。
祖父はきっと、わたしがモリムラサキを食べさせられて記憶を失ったことに関しては丁度いい、と思ったに違いない。死にかけて血まみれになった記憶なんて、忘れた方がいいに決まっている。誰かに恨まれて殺される、なんて過激な内容であれば、特に。
だからこそ、万道具の素材を食べることにハマっていたわたしに、シルビオンを始めとした、記憶をいじるタイプの万道具の素材になるものを食べることを禁じていたのだろう。
――でも、シルビオンの小金焼で全てを思い出した。十年以上前に食べたモリムラサキの効果すら打ち消すとはやばいな、これ。どんな風に作ったらそうなるのか、是非教えて貰いたいものだ。
個人差が強い、と姫鶴が言っていたから、わたしがたまたま、効果が出やすい体質なだけだったのかもしれない。いや、それでも、昔シルビオンをかじったときには欠片も思い出さなかったから、ある程度効果が強化されているかもしれない。
わたしも研究に混ぜて貰いたいものだ。きっと、すごく楽しいだろう。
――でも、姫鶴とだけで研究したいわけじゃない。
きっと、わたしは寝食を忘れて夢中になって研究するだろう。そんなわたしを叱るのは、透くんであってほしい。困ったように笑いながらでも、母親かと突っ込みたくなるようなお小言を言うのでもいい。
ただ、わたしの隣に、彼がいてほしいのだ。




