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家からさほど遠くない、でも近所というにはちょっとためらう、微妙な立地にある薄暮の森。
そりゃあもう、昔から祖父と素材採取によく訪れていて、道はしっかりと頭に入っている。なんなら、顔パスと言ってもいいくらい。まあ、それも警備の人が入れ替わるまでのことなんだけど。
だから今更一人でも大丈夫。
そう、思ったはずだったのだが。
「……迷子になった?」
頭に血が上った状態で森に入ったのがまずかったらしい。いつもの道を見失ってしまった。
素材は無事に見つかったものの、帰れないのは非常にまずい。
祖父は出かけていて明日の朝まで帰ってこないし、あんな風に家を出てきてしまっては、透くんも探しに来てはくれないだろう。
……いや、普通に出てきたとしても、探しに来てくれないか。
むやみやたらに歩き回るのは良くないが、立ち止まるなら休めそうな場所がいい。今日は警備の人に挨拶してから森に入っているから、最悪、完全に日が暮れる前には探しに来てくれるだろう。
ちょっと焦りながらも、なんとかなると楽観視しながら帰り道を探しつつ、休憩するのに良さげな場所を探していると、人影を見つけた。何とかなる、と思っていても、人影を見るとやっぱり安心してしまうものだ。
――もっとも、声をかけた人物が信用に足るかは、また別の話なのだが。
「――っ、あの!」
わたしが声をかけると、その人物は振り向いた。わたしより少し上の男の子。青年、と呼ぶ程はまだ、歳を取っていないだろう。
振り返った男の子の顔を見て、わたしは一瞬、透くんかと思った。それほどまでに、彼の顔が似ていたのだ。
しかし、冷静になってみれば、別人だと分かる。
透くんのように白髪が混ざっていないし、瞳は宝石みたいに鮮やかな紫だ。
「……こんにちは」
わたしを見て、男の子が近寄ってくる。
「こ、こんにちは。あの、すみません、わたし、迷子になっちゃって……」
馬鹿みたいに整った顔が、優しくほほ笑んでくれる。妙にドキッとしてしまい、わたしはしどろもどろになって言葉を探した。
透くんに似ている男の子がこんな風に綺麗に笑うのだ。透くんも、笑ったらこんな感じなのだろうか、と思いながら。
「ああ、それは大変だ」
「夜になる前に家に帰らないといけないので、急がないと」
男の子が手を差し出してくるものだから、わたしはなんの疑いも持たずにその手を取ろうとした。一緒に手を繋いで帰ってくれるのか、なんて思いながら。
――でも、違った。
「外への道、知りませ、ん、ぁ――?」
ガッと手首を掴まれると、思い切り男の子の方へ引っ張られる。抱き寄せられるような形になったが、全然違う。
ドッ、とお腹に衝撃が走る。殴られたような感覚だったが――実際は、もっと悪い状況にわたしはおちいっていた。




