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 透くんは比較的真面目に学校へ通っていたけれど、わたしはたびたび学校をサボって、万道具作りに励んでいた。このときから筋金入りの万道具馬鹿だったのである。

まあ、前世でもかなりやり込んだプレイヤーが、いざ実際にそれを作れるとなれば、ハマらないわけがないのだが。


 そんなことをしている上に、前世でプレイした『黎明のアルケミスト』の知識があって、さらには透おにいちゃんよりは先に万道具のプロである祖父をを師事していたため、万道具を作るスキルはわたしの方が上だった。

 それが気に入らないようで、ただでさえ厚かった彼との壁は、どんどん厚みを増していく。


 透くんが家に来て、一年経つかどうかの頃、ついには、軽い挨拶すら無視されるようになった。今ではとてもじゃないが、考えられない。

 流石の祖父も、わたしたちの関係がかなりギスギスしていることがまずいと思ったのか、二人で共同して作るように、と万道具の制作課題を出してきた。


 課題は日隠筆。

 正直、わたし一人でも作れるが、それでは祖父が「二人で」と言った意味がない。


「透おにいちゃん、それとって」


 祖父がなんとかわたしたちを和解させようとこの課題を出したことが分かっている積極的に声をかけて、一緒に作ろうとしても、彼は無視するばかり。じいちゃんの工房はそう広くない。聞こえていないはずがない。透くんだって、祖父の意図が察せなかったわけじゃないだろうに。


「ねえ」


「…………」


「ねえってば!」


 ばん、と彼が使っている作業机を思い切り叩く。振動で、調合されたインクの入った瓶が倒れた。中身がこぼれてしまうが、透くんは無視するばかりだった。

 こうもシカトされ続けると腹が立つ。そろそろ、年上だから優しくしないと、と思って我慢して来たものが爆発しそうだ。

 ――いや、もう、した。


「なんでそんなに無視するわけ? 馬鹿にしてるの?」


「……別に」


 作業を止めない彼の手を、わたしは強引につかみ、作業道具を取り上げる。


「別にじゃねーでしょ! わたしは、仲良くしたいって、言ってたじゃん!」


 ようやく顔をこちらに見せたか、と思えば、透くんは目を丸くしていた。


「……なに、その顔」


「だって……。こんな態度取ってるのに、君が、仲良くしたいっていうから」


「馬鹿にしてんの?」


「してない……。僕となんか、仲良くしないほうがいいよ」


 小さく、しかしはっきりと聞こえた言葉。

 それがきっと、彼の本心なのだろう。


 でも、それを聞いてやる義理はない。散々、無視を決め込まれても話しかけてきたのだ。

 今更引いてやるもんか。


「そんなの知らない! 仲良したいって、ずっと思ってるもん! わたしが嫌いならそういえばいいじゃん」


「それは……」


 もご、と何か言おうとして、そのまま透くんは黙り込んだ。

 沈黙だけが流れる。

 わたしは倒れた瓶を乱暴に起こし、ずかずかと工房と店をつなぐ扉へ向かった。


「インク用の素材、新しいやつ取ってくる!」


 当てつけのように、バァン、と派手な音を立てて扉を開閉し、わたしは森へと向かった。

 ――薄暮の森に。

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