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「今日からうちの店に入る透くんだ。お前の二つ上だが、仲良くしなさい」
ある日、じいちゃんは一人の男の子を連れて、そんなことを言った。
わたしより二歳年上。じゃあ、今年八歳なのかな。二十年分の記憶があるけど、今のわたしは六歳だから。
八歳にしては、発育が悪い子供だな、と思った。六歳のわたしより背は低いし、がりがりで細っこい。幼少期は女の子の方が成長が早いっていったって、限度はある。
加えて、八歳にしては白髪の目立つ黒髪。黒に近い紫の瞳は酷く濁っていて、唇はガサガサ。肌つやも悪くて、表情が暗い。
どっからどう見ても、『訳アリ』な子供。
それが透くんの第一印象だった。ネグレクトでも受けているのか、と思ったが、流石にストレートに聞くほど、わたしだって馬鹿じゃないし、いくら多少は六歳の子供である体に精神が引っ張られがち、とはいえ、その辺の考えはちゃんとしている。
これは精神年齢が上なわたしが歩み寄るべきだろう。
「わたし、万結っていうの。よろしくね、透おにいちゃん!」
祖父が仲良くしろ、と言っているし、いかにも『可哀想な子供』の透くん。
だから、わたしが優しくしてあげないと。
そんな、高慢な考えを見抜かれたのか――それとも、単純に当時の透くんの性格がねじ曲がっていたのか。
わたしが笑顔で差し出した手を、透くんは振り払った。
「別に……君と仲良くするつもりないから」
抑揚のない、ガサガサの声。
それでも、確実に、透くんを前に笑顔でいるわたしを『能天気なガキ』と認識したのであろうことが、彼の、わたしを見る視線で分かった。
なんだこのクソガキ。
カーン、と頭の中で、戦いのコングが打ちならされた気がした。
――そんな初対面をやりすごしたその日から、透くんはわたしが通う学校に編入し、学生をする傍ら、わたしと同じように、祖父の店で手伝いをして万道具の勉強をするようになった。
学校に通うのも、まともな共同生活をするのも初めてなのか、何かに直面する度、困ったように固まっていた。まともに箸も握れず、風呂にも入ったこともないような様子を見るたびに、同情せざるを得なかった。
もっとも、可哀想だな、と思ったわたしが物事を教えて上げれば「別に教えてくれなくてもなんとかなった」と透くんがこっちを睨みつけてくるので、そのたびに、なんだこのクソガキ! と言い返したくなるのを我慢していたんだけど。
まあ、今となっては、あの頃のわたしは随分と上から目線で物事を教えていたように思う。……それにしたって、透くんも透くんで、もう少しなんとかならなかったのかな、とは思うけど。




