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 わたしは必死に走って、彼の家に向かった。今いるか、分からないけど……。

 呼び鈴を鳴らすと、出たのは透くんではなく、一人の女性だった。透くんの家に湯浴炉を直しにいったとき、酒瓶片手に馬鹿笑いしていたあの人だ。ただ、今日はあのときの陽気さはなく、今にも死にそうな程暗い表情でわたしを出迎えている。服はあのときと同じくらい、はだけているが。

 近寄りがたい酒くささと、白い顔色。目が若干虚ろなところを見ると、もしかしなくとも絶賛二日酔い中なんだろう。


「御用時はぁ~~、……っ、はぁ、なんですかぁ……」


 時折えずきながら、地獄の底から這い出ているのかと思うほど低い声で、わたしに問うてきた。もしかしたら、寝ていたのかな……。


「あ、あの、透くん、いませんか」


 少し申し訳ないな、と思いつつも、わたしは手短に用事を伝える。例え彼女が二日酔いで死にかけていようと、関係なくて、結局はここにきていたのだから、せめてさっさと用事を済ませるに限る。そもそも、わたしは、早く透くんに会わないといけないのだ。

 もし、わたしの、嫌な予感が当たっていれば――透くんは、死んでしまうかもしれないのだから。

 早く、早く会いたい、と思っていたが、女性は「あー……」とうめいたかと思うと、「知らない」と答えた。


「昨日から帰ってないんだよ、彼。まあ、うち、門限とかないからさ、好きに出入りしろって話なんだけど。昨日からずっと呑んでたけど、誰かが帰ってきた音しなかったし……うっぷ」


 気持ち悪そうに彼女は口元を押さえる。だ、大丈夫か……?


「……あー、まあ、酔っ払いの言うことだから確実かって言われると自信ないけどぉ……。あ、でも、透の靴ないや」


 彼女の視線が、玄関にある靴箱に向かう。わたしもそちらを見れば、一足ずつ入れられるように区切られた靴箱があった。使用者の名前が彫られていて、透、と名前がある区画はいくつかあったが、いつも透くんが普段使いしている靴は、ない。他の靴は全部揃っている。普段使いの靴を履いて外出している可能性が高い。


 ――昨日。


 もしかして、わたしを家に送ってから……帰ってない?


「わ、かりました。ありがとうございました」


 わたしは彼女に礼を告げると、彼の家を後にして、再び走り出した。

 心当たりのある場所は、片っ端から探さなければならない。

 この不安と、嫌な予感は、彼の無事を確認するまで、払拭されることはないのだから。


 きっと、透くんは――透おにいちゃんは、あの日の約束を果たそうとしているのだ。

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