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二つ目のシルビオンの小金焼を食べる。
まずい、と思いながら咀嚼し、飲み込む。口の中は最悪な地獄だったけれど、代わりに、わたしは全てを思い出せた。
昨晩、紫司馬に消された記憶だけでなく――『万結』がこの世界に生まれて、『わたし』の意識が芽生えるまでの、数年の記憶も。
「ああ、だからじいちゃんは、シルビオンを食べるな、って言ったんだ……」
わたしが、万道具の素材を食べることができる、と気が付いて、毒性のあるもの以外は好奇心のままに食べていたとき、祖父から、「これは食べるな」と言われていた素材たちを、わたしは思い出していた。その中の一つに――シルビオンがあった。
今思えば、祖父が食べるなと言ったリストにあったものは、全て記憶に関する万道具の素材のものばかりだった。
小さい頃の『万結』――『わたし』は、拾い食いをするような子供だった。それこそ、前世は花壇のサルビアの蜜を吸ったり、野イチゴをかじるような子供だったから、周りの子供が食べていれば、気にせずそれを食べる子供だった。一緒に遊んでいた子供とあれこれ食べて、けらけら笑うような野生児だったのだ。今はもう、その子たちとは疎遠になっているけれど。いくら幼少期に仲良しでも、通う学校が違ければ関係は続かない。わたしは祖父の勧めた学校に入学したけれど、一緒に遊んでいた子は確か、黎明学園の付属学校に入学していたはずだ。
閑話休題。
そんな中の一つに、シルビオンがあって、一度食べてから、二度と食べるもんか、と思っていたから、別に祖父に食べることを禁じられたところで、深くは考えなかったのだ。どうせ食べないからいいや、って。
でも、祖父には、わたしに、どうしても思い出させたくなかった記憶があったのだ。
だから、記憶に関する万道具の素材を食べさせなかった。
わたしが、思い出してしまうと、困るから。
代わりに、わたしは、この世界に生まれてからの数年間の記憶を失ったけれど。
透くんと出会った頃の記憶が曖昧なのは、転生に気が付いて、前世の記憶とごちゃ混ぜになったからじゃない。本当は、生まれたときから、わたしは転生者だということを知っていた。
ただ、『あの事件』を忘れたままでいるために、祖父があれこれ気を使っていただけなのだ。
――それも、もう、思い出してしまったったけれど。
わたしは玄関に残りの小金焼が入った紙袋を置いて、透くんを探しに走った。
――彼が、死んでしまうかもしれない。
その前に、わたしは、透くんを見つけないといけないのだ。
絶対に。




