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詩黄。
それは『黎明のアルケミスト』において、一番人気の攻略キャラだった。
あざと可愛い小悪魔っぷりに振り回されたい、という声が多い。らしい。
わたしの攻略キャラに対しての情報は、主に公式ホームぺージであり、たまに攻略サイトやSNS、という感じなので、あざとかわいいショタ枠、ということしか知らない。ショタ枠、と言っても、主人公の一つ下、というだけで言うほど子供でもないのだが。見た目は完全に子供だけれど。
店に戻ると、カウンターごしに彼の姿が見える。胸より下はカウンターに隠れているので、彼の身長の低さがうかがえる。
わたしですら、丁度腰の高さくらいなのに。
彼の手には万道具がない。購入や修理ではないとなると……オーダーメイドの依頼とかだろうか?
カウンターの前に立つ彼は、じっとわたしを見つめてくる。
「えっと……どういったご用件でしょうか?」
「うーん、要件っていうか……おねーさんが万結って人?」
「そう、ですけど」
そっちから聞いてきたくせに、ふーん、と興味なさげな声が返ってくる。ちなみに、万結というのは『黎明のアルケミスト』のヒロインのデフォルト名であり、同時にこの世界でのわたしの名前である。
一体、なんなんだ。
わたしの困惑が伝わったのか、わたしが助けてくれとちらちら視線を送ったからか、透くんもこちらの様子をうかがっている。
要件があるならさっさとしてくれ、と、オブラートに包んで言おうとして――。
「たいしたことないじゃん。どっちかっていうと、ブスじゃない?」
――言葉が引っ込んだ。代わりに、ビッ、という紙が裂ける音がした。隣から。透くんもオーダーメイドの依頼だと思っていたようで、その準備をしていたようだ。透くん、伝票破っちゃったね?
硬直して声を出せないわたしに、詩黄はなおも言葉を続ける。
「姫鶴が、ボクはきっと万結を好きになる、なんて言ってたから、どんな人かと思えば、ふっつーのおねーさんじゃん? 姫鶴のが美人でかわいいし」
何を気にしてるんだろ、ばっかみたい。
そう詩黄は拗ねたように、怒ったように言い捨てた。
「おねーさんみたいなブス、好きにならないし。それなのに、ことあるごとにおねーさんの名前出して、ボクに本気になってくれないの。酷いと思わない?」
いや、そう言われましても……。
わざわざわたしの名前を出すということは、青慈とくっついた後の話なのだろうか。どのルートでも大体死ぬ、と言っていたし、死ぬことが分かっていて、くっつけようとすることもあるまい。
姫鶴の想像を超えた世界になってしまって、ルート修正を試みたのだろうか。
それとも、詩黄ルートになったとしても、万結というヒロインとの仲は邪魔しない、という意味で言っていたのだろうか。
どうして姫鶴が死ぬのか分からないわたしには、ちょっと見当がつかない。そもそもつい先日まで、彼女が死んでしまうことすら知らなかったし。




