<うちのお嬢様はタルトの中身にもこだわる>その6
「気に入らないのは仕方がないけどさー、あんな言い方ないじゃない?」
サラのイライラが収まらない。
先刻サラは、アレクサンドラお嬢様の服をお出ししていた。それで、衣裳部屋まで何往復もさせられたから…
本来ならば、お嬢様の身支度が終われば、夜勤の仕事は終わり。だが、まっすぐ宿舎に戻る気になれずに、こうして喋らなければ収まらなくなっていた。
お嬢様は今、1階で朝食をお召し上がりになられている。
というわけで、お嬢様のお部屋で侍女たちのお喋りターイム!
「いつも絶対、最初に出したものは着ないよね」
サラの言葉に、私も大きく頷いた。
「ゆうべはお嬢様、「明日はレースの付いた服が着たい」って仰っていたのに。それにその前に「今日の服は、飾りがなくてつまらない」だって! それだって、自分で選んだものじゃない!」
ゆうべはそんなこと仰っていたのか。
「結局、今日選んだのは、レースなんか全然付いていない服だし」
うんうん。
『今日の水色のドレス』とは、袖口が絞ってあってふっくらしている以外は、至ってシンプルなワンピースだ。
「去年誂えた時は、全く見向きもしなかったのにね」
そう。
だから、あの服のことを憶えていらしたのは意外だった。
「エリー、お嬢様の髪に、リボンを付けていたでしょう?」
「うん」
今日は服に合わせ、水色のリボンにした。
「昨日付けていた黄色いリボン、『嫌い』って投げ捨ててたよ」
「マジか」
「マジ」
何だと。
あれは、お嬢様のおばあさまから頂いた、高級シルク製である。お若い時分に愛用なさっていた品だと聞いた。
確かに少々くたびれ感はあるが、品質は最上級といってもいい。それに昔の思い出の詰まった一品であるはず。それを、あっさり譲られた、可愛い可愛い孫娘が…
投げ捨てた、だと?
「ちゃんと拾って、しまっておいたから」
サラが言った。あ、ありがとう…!
捨てたのがお嬢様だからって、なくなって叱られるのは私たち侍女に決まっている。
この家で、お嬢様を叱る者など存在しない。
伯爵令嬢にして見目麗しく、家族に愛されるお嬢様。
誰もが羨む生活…なんだろうな。でも、私から見えるお嬢様は、そこまでお幸せそうには見えない。どうしてだろう。
ストレスが。