<うちのお嬢様はタルトの中身にもこだわる>その5
「おはようございます」
私は、ベッドの上でぼんやりとしている、アレクサンドラお嬢様に微笑んだ。
お嬢様は何も言わない。こちらを見上げるのが「起きた」のサインだ。
私はカートを引き寄せた。お嬢様は動かない。私は、ボウルの水を少しグラスに取り、残りの水に小さなタオルを浸し、それでお嬢様のお顔を拭った。お嬢様は、無表情でされるがままである。それが済むと、グラスと空のボウルをお渡しした。うがいは、さすがにご自分でして頂かなくては。
その後、私は訊ねた。
「お嬢様、水をお飲みにな…」
「いらない」
終わりまで聞かずにお答えになる。不機嫌なのではない。これが日常である。
お嬢様はベッドから出て、居間へゆく。
サラの挨拶も当然のように無視し、彼女が出した服3点の前に立った。
右から、
・ピンクと白のワンピース(ピンクのフリルが多めで愛らしい)
・若草色のセパレート型(レースのグラデーションが素敵)
・クリーム色と青のワンピース(シンプルデザインながら袖の細かいレースがポイント)
…と、いったラインナップ。
「今日は昨日より暑くなりそうです」
私が言った。服を選ぶ参考になれば、と。聞いていないでしょうが。
「水色のドレスがいい」
さすがお嬢様、出していないものを仰るとは。
サラが急いで衣装室へ行き、水色のドレスを抱えて戻ってきた。
お嬢様はそのドレスを見て、
「半袖のやつ」
冷たく一言。
サラはもう一度衣装室へ消え、少し時間がかかった。
ぼんやりと待っていても、お嬢様が飽きてしまうし、朝食に遅れてしまう。私は、その間にお嬢様の髪を梳くことを提案した。
ブラシをそっと当てながら、私は訊ねた。
「今日はどのような髪型にいたしましょうか?」
「何でもいいわ」
興味なさそうに、お嬢様は答えた。
でもこれ、気に入らない髪型にしたら怒られるやつですよね? お嬢様。
具体的に仰っていただいた方が、お互いのためになる気がするんですが…
なんて言えない。
言えないなら、考えるしかない。
そうだ。
「今日はひとつに結んで、リボンを付けましょうか」
暑い日にはいいかも。
「そう…」
また興味なさげな、お声。
まあいい。
髪を梳くうち、サラが薄手のドレスを抱えて戻ってきた。去年の今頃、誂えたものだ。その時は、さほどお気に召したふうでもなかったのに。
ちゃんと憶えていらしたのだ。
爽やかな水色のドレスは涼しげで、お嬢様の怜悧な雰囲気によくお似合いだった。
まだ小さなお姿ながら、お嬢様には、こういう寒色系の色がなじむ。
ピンクやオレンジ色もいいのだが、それにご両親はむしろそういう色を着せたがるようだが、どうも私には「ちょっと違う」という気がしてしまう。
…ま、私の個人的な感想だけれどね。
それに、うちのお嬢様に似合わない色などありませんし。
さすがお嬢さま、なんですね。