2話 ホームルームにて
第2話
平野高校は、校門から校舎までが長い。
50メートルほどある。
なので、この学校の運動部は坂道ダッシュが出来ない代わりに校門ダッシュをするのが伝統だ。
そしてなにより校舎が変わっている。
学校というよりはビルに近い。
在校生の数は400人。
クラスも学年1つに4クラスで高校の割には小規模である。
私有地は広く平均的な学校ほどの敷地面積で建てられるので、2階建てで十分な生徒数である。
しかし、平野高校は6階建てだ。
それは緊急時集まる場所でもある学校は目立つ必要があるとのことで、
高台のないこの町では、校舎自体を高層とすることになったらしい。
確かに屋上からの見晴らしは良く、最寄りの平野駅を越え、次の難出茂江駅までも見えるほど遠くまで見える。
その分多目的室という名の空き部屋が20室以上あったり、
生徒数に対して見合わないが、一つの階層がまるまる図書室になっていたりする。
そんな平野高校の登校時間に、
朝のバカ騒ぎであわや遅刻するかもと思っていたが、何とか間に合った。
「あー、ついたついた!
ギリギリ間に合ったなぁ!
勉学にいそしみましょかーw」
百華はそんな気もない言葉を放った。
そんな気もないので、話は終わりのホームルームまで飛ぶ。
****************************
6限目の数学が終わり、やっとホームルームである。
俺の席は窓際最後尾から二番目。
後ろは腐れ縁なのか百華である。
「やぁ~っと終わったなー!
せんせの話終わったら探しに行こなー!」
手を組んで伸びをしながら百華が声をかけてくる。
授業が終わった解放感から満面の笑顔である。
「何を探すねん!
今日はスタジオもないし早よ帰るわ!」
俺も百華も帰宅部なので、放課後はだいたい一緒に帰る。
バンドのリハがあったら、俺はそのまま駅前の貸スタジオに行ったりするが、
そんな時でも百華は大概付いて来るので結局一緒に帰る。
「何て、猫に決まってるやん!
私今日授業中真剣に考えててん!」
「猫て、お前が見た幽霊猫か?
あれ作り話やろw」
「作り話ちゃうて!!
クロエはほんまにおんねんて!!」
百華は『ダンッ!』と机に手を置いて前に乗り出して言う。
「んなこと言うてもなぁ。
……っで、クロエって何やねん?」
「やから、真面目に考えてた名前やんか。
猫ちゃんの。」
良い名前やろ?と言わんばかりのドヤ顔。
「メスかオスかも分からんのにか?w
まぁ名前は何でもいいけど。
探しには行かんやろw」
「なんでやぁ!
あんたの歌詞の猫ちゃんやねんでー!?」
百華は非常に不服そうに口を尖らせる。
「んなわけないやろw」
と茶化したところで、
『ガララー』っとドアが開いて先生登場。
がやがやとしていたクラスが徐々に静まっていく。
「もぉ!!」
と口を膨らまして百華が背中を小突いた。
「えー……、皆、今日も一日お疲れさん。
まぁ夏休みがあとちょいで始まるけどなー……。
その前の期末テストであかんかったら、補習あるからまだまだ始まらんねんけどなーw
……夏休みが長なるか、短なるかは皆の頑張り次第や。
やから皆、……必死こいて勉強するようにー……。」
目が線みたいになってて、非常にマイペースな俺らの担任の戸出茂先生だ。
野球部の顧問で、野球部員からの人望は厚い。髪型も部員と一体感を持てるようにと常にボーズにしている。
とにかく戸出茂先生が言うように、楽しみな楽しみな高校2年生の夏休みである。
俺はバンドのライブも控えていて、何かがおこる気がする夏になる!そう思っている。
そう思っているのに……。
「あー……、土浦。
……お前にはちょっと話あるからー。
終わったら先生の所来るようにー……。
以上でホームルーム終わり……。」
起立、礼。
で静まり返ったクラスがまた、がやがやと声が溢れ出す。
「まじかい。早よ帰りたいのに……。
なんやろ……。」
特に悪いことはしていないのだが、
やはり先生に呼ばれるのは、悪い予感しかしない。
「あんたは普段の成績と行いが悪いから、
最初から補習確定で呼ばれんのとちゃう?w」
シシシと笑って茶化してくる百華。
「あほか、俺の成績で補習やったら、お前は留年やんけw」
「なんでやw
あんたと私やったらトントンやろw」
『トントンやろ』でトントン背中を叩いて来た。
「そのトントンちゃうやろw
まぁ良いわ、先生とこ行ってくるわ。」
とにかく話を聞かねばならぬということで、ようやく席を立ち、
職員室に戻らず野球部員と談笑しながら、教卓付近で待ってくれていた先生の所へ向かう。
「先生ー!
話て何ですかー。」
「おぉー……、土浦すまんなー……。
……お前図書委員やろ?」
図書委員?
あぁ、そういえばそうだ。
2年になった春、クラスで全員1つは何かの委員にならなければならないということで、
俺は一番楽そうな図書委員になった。
確かに楽で、活動はほぼ無く、言われて今、自分が図書委員だったことを思い出す程には、
今日まで図書委員らしいことは一つもしてこなかった。
「……あー、そうですね。
確かに僕、図書委員です。」
「せよなー。
実は夏休みが終わったらなー……。
5年ぶりくらいに図書室に新しい本やらが、どっと入ってくるらしわ。
せやから、それまでに大規模に図書室の本を整理するねんてー……。
せやから、今日から、しばらく図書室で整理してきー……。」
「え!?
整理て!!
図書室言うて、図書館くらいめちゃくちゃデカいんすよ!?
あれを整理て、夏休み食い込むんちゃいますか!?」
この学校の図書室とは、5階部屋全部がぶち抜きになっていてまるまる全室が本のある部屋となっている。
俺は絶望の色を隠せない。
「それは俺には分からんなー……。
とりあえず、図書室行ってきてー。
まぁ仮に夏休みと被ったらそれはそんだけ静かな場所で勉強も出来るってことやからなー……。
補習受けるみたいなもんやし……、夏川はきっと補習組みやろから、いつも通り仲良く学校来たらいいんちゃうか……?」」
先生は俺の絶望を気遣ったつもりの追い打ちを放った。
「あいつは補習やろうけど、俺は夏休みを謳歌したいです!!!」
と気持ちを戸出茂先生に訴えたところでとりあえずカバンを取りに自分の席へ。
ここでごねてもしょうがないので、図書室へ行くしかない。
「俺今から図書室行かなあかんくなったから、お前先帰れや。」
手のひらをチューリップにして、顔を乗せてボケーっと俺を待っている百華に言う。
「なんなん?
やっぱり補習って言い渡されたんやろ?w」
プギャーwみたいな指さしをしてくる百華。
「ちゃうわw
なんかわからんけど、図書委員の仕事や!」
「あんた図書委員やったんw
全然に合わへんやんw
あんたが委員の仕事行くとか初めてやなw
いつもサボってたくせにw」
まぁ大概一緒に帰ってるので初めてなのは知っている百華。
「サボてたんちゃうw
今日が初出勤なだけや。
とにかく用事できたから、猫探しは独りで勝手に行け。
どうせおらんやろうし。」
「クロエは、ほんまにおる!!
いいよ、私が独りで見つけて写メに取ったるわ!!」
信じてもらえないのが悔しいようで、不満声で言う。
「そうしw
でも暗くなる前に家帰れよ。」
「知らん!
見つかるまで帰らんし!!」
いこじになる百華。
ズンズンズン!と勇足で、部屋から出て行った。
「……俺も図書室行くかぁ。」
2話終わり




