プロローグ
「キーンッ……――」
夏のむわっとした空気を裂き、突き抜けていく金属音。
球場にいる全ての人々がそれを追い、空を見上げた。
それは本格派左腕から放たれる渾身のストレートだった。
打席に立つのは平野高校の4番打者。
ホームラン狙いではなく、日本の美、繋げる野球の要、叩きつけるダウンスイング。
絶妙なタイミングと当たり所で、それはもう尋常じゃないほどのバックスピンを生み出し、高く高く白球が上空に伸びていく。
その白球の行方は……
……特大キャッチャーフライだった。
………………
…………
……
「……たまやー。」
「なんでやねん!」
背中から頭が転がり落ちそうなほど上を向いた、隣の女の生気のないボケに、俺はしょうがなくつっこむ。
「お前が先輩の練習試合を見に行こって誘って来たから、バンドの練習の時間割いて付いて来たってんねんぞ。もっと楽しんで見や!!」
『モデルか!』というほど無駄に長い手足や、小さい顔を完全に台無しにする大あくびをかましているそいつに肘鉄を食らわす。
「だって、いまいちルール分からんくて盛り上がりどころが掴めへんねんもん。」
「なんとなく楽しんだらええんや!
好きな人がただそこにおるってだけで心がほかっとするもんやろ?……知らんけど。」
「知らんのかい。
言うて、先輩の出番なかなか回ってこやんしー。」
「野球はそういうもんやw
ほら見てみ、先輩今ライトをニコニコして守ってるやん。」
お目当ての先輩は、8番ライトだ。
「あ!!
そんなことより、うち今日先輩に渡すおべんと作って来てん!
あんたの分もあるから食べてみ。」
「そんなことて!!」
有無を言わさず、話すと同時に自分のカバンにごそごそと手を突っ込んでいた。
「ほらほらほら♪あんたの好きな唐揚げやでー!
百華ちゃんスペシャルソースも絡めてなー!!
ほら、『あーん』!」
「お前、スペシャルソースてそれただのケチャップやんけ!
おい、俺まだ11時やしそんな腹減ってな---……」
………………
…………
……
____
えー、この物語を読んでくれてはるみなさん、こんにちは。
冒頭、我が平野高校の野球部の練習試合から始まってますが、
この物語は野球とは全然関係ありません。
俺はこの物語の一応主人公やらせてもらってます、土浦海と言います。
バンドやってて歌詞作るのが生き甲斐です。
そしてもう一人一緒にいた残念女、夏川百華が、一応ヒロインです。
ここからはプロローグということで、
この俺、土浦海がお話させてもらおうと思います。
「いやー、でもやっぱし先輩かっこよかったなぁー、
どっかの誰かさんにはない爽やか笑顔やしなー。」
百華はうんうんうなずきながら、小ばかにしてくる。
グイっと割り込んでくんなや!
……あっ、今はもうすでに練習試合が終わってからの帰り道です。
「今、喋って来たらプロローグがわけわからんくなるやんけ!
ほんま空気読めてへんなw」
「プロローグ?」
あほの子の顔をする百華。
「あーお前には関係ないわw
そんな事よりちゃんと弁当渡せたんか?」
メタ発言を突いて広げるのもややこしいので、パスっと切って、今回の目標の達成が出来たのか聞いてみる。
「もっ、ももも、もちろんや!!
先輩だいぶ喜んでくれたで!」
「……ふーん。
それはよかったなぁー。」
なんでそこできょどんねんと思いつつもそこはスルー。
_____
……
失礼しましたw
プロローグに戻ります。
……こんな感じで、夏川百華は、今は、うちの学校の野球部の先輩に恋をしてはります。
「今は、」って言いましたけど、それまではバスケ部の先輩に目がハートマークでしたw
ほんまこいつ高校に入ってから惚れやすいんですわ。
中学までは、海、海!って言って俺の事ばっかり追い回してたのに。
百華とは家が近所で幼稚園入る前からの付き合いです。
昔からかわらず、色気なくべらべら喋り倒すし、ガサツな奴です。
でも高校生になって、背もどんどん伸びて、モデルみたいなスタイルやし、顔もちょっと可愛いなってきました。
ほんで中学まで、名前で俺の事呼んでたのに、今は、あんたって呼んできます。俺も小さく見られたもんです。
そんな百華は、誰かに惚れるたびにやれ練習試合や、やれ記録会や言うて、俺を連れ回します。
まぁ毎回付いていく俺もあれなんですが……w
でも百華が付き合うかも知れん男なら、絶対ちゃんと見ておきたいんです。
……百華を幸せに出来るんかどうか。
そうなんです。
俺は百華の事、昔からずっと好きなんです。
俺の事なんとも思っていなくてもね。
……だらだら長くしゃべり過ぎましたね。
そろそろ本編に入ります!
この物語は、
高校二年の夏。
土浦海と夏川百華が発光する猫に出会う。
そんなお話です。
短い間ですが、どうぞお付き合いください!




