第1話:過去の忘れ物
「はじめまして〜。」
・・・また来てしまった。もう来ないと決めたはずなのに・・・
「え〜と・・・江美でぇす。よろしくぅ」
「おう!こちらこそ江美ちゃん!」
・・・もう私にはこれしかないんだ・・・。
我慢、我慢。もうなれた・・・なれた。
そう自分に言い聞かせてる・・・。
=川原江美=
まだたったの15歳。生まれつき体型が大人なのでよく20歳に間違われる。
3年前に母親を亡くしてからずっと1人暮らし。父親は母が死んだ直後、家を出て行った。特に仲が悪かったわけでもないが・・・良かったわけでもない。本当は祖母に引き取ってもらうはずだったが、江美は望まなかった・・・
『あの家に住むなら1人でいたほうがまだまし・・・。』
江美は祖母が苦手だった。むしろ嫌いだった。祖母は江美の母親を好まない・・・。よく祖母は江美の母、和江を竜次郎の昔の奥さんと比べる。
竜次郎とは江美の父親だ。
そう、竜次郎にとって和江は2人目の妻なのだ・・・ようするに江美の本当の母ではないということ。しかし江美にとっては彼女が本当の母なのだ・・・
というのは、江美の本当の母は江美が生まれた直後に死んでしまったので江美は会ったことがないからだ。
和江と竜次郎は江美が5歳のころ籍を入れた・・・
和江が死んで江美は変わった・・・江美にとって和江はたった1人の母だった。和江の死は本当に突然だった。和江が死ぬ昨日の夜に江美は約束をしていたのだ、
「お母さん、明日学校から帰ったら一緒に海行こうね!!絶対だよ!約束」
「どうしたの?また急に、まあ明日は何も仕事もないし・・・いいわよ!」
明日は和江の誕生日だった・・・江美は和江に内緒でプレゼントも買ってびっくりさせようと考えていた・・・
次の日の午後、江美は急いで家へ向かった。
「たっだいまぁ!お母さん準備できた?早く行こう!」
・・・中から返事はない。
「ねぇ!お母さんいないの??」
・・・リビングまで来てみても誰もいない。
ピチャッピチャッ
キッチンの方から水が流れる音が聞こえた。
「お母さん?」
・・・なにかイヤな予感がした・・・
テーブルの端っこで誰かが倒れてる・・・駆け寄って見ると、それは・・・
「お母さん!!!ねぇ!しっかりして!!お母さん!!救急車・・・呼ばなきゃ!!」
ピーポーピーポー
救急車の中でお母さんの手を必死に握った・・・するとお母さんもかすかだけどギュっと握り返してくる・・・
「お母さん・・・お願いだからおいてかないで・・・」
江美は1人になるのが怖かった・・・お母さんがいなけりゃ1人も同然。お父さんはいつも外出でほとんどいない・・・江美が1番恐れていたのは母親が自分の前からいなくなってしまう事だった。
病院に到着してしばらく・・・
「和江さんの娘さんですよね?」
「はい・・・お母さんは??お母さんは無事なんですか??」
「・・・」
「ねぇ・・・返事してくださいよ!!無事なんでしょ??」
「・・・残念ながら・・・最善は尽くしたんですが・・・手遅れでした・・・。」
「そんな・・・」
・・・江美の目の前は真っ白になってしまった・・・
今日はお母さんの誕生日なのに・・・
お母さん・・・
しばらくして目が覚めると江美は白い部屋にいた。
「あぁ、やっと目が覚めた?あなた気を失ってたのよ?よっぽどショックだったのね」
・・・看護婦さん・・・
「あのさ、ひとつ聞いていいかな?」
「・・・どうぞ」
「あなたのお父さんは??」
「・・・わかりません。」
「連絡しなくていいの?」
「いいんです・・・したとしても父は絶対に来ませんから・・・」
「そう・・・」
江美は看護婦が部屋をでてから携帯を手に取った・・・
『かけてみよう・・・』
プルプルプル
・・・
やっぱり、でないか・・・
・・・江美の父は一週間前から家に帰ってきていない・・・でも江美はそこまで気にしてなかった・・・
どうせまたいつもの浮気だろう・・・
いっそのこと帰ってこなくていいのに。
あれから3年・・・
父は本当に帰ってこなかった。
江美にとってはもう父なんて過去の存在としか思ってない。
特にたいした思い出があるってわけでもないから・・・
そして江美は
明日から高校1年生。一緒に喜んでくれる人がいない・・・普通なら悲しいけど、江美にとってはこれが普通になってしまった。
明日から新学期だというのに・・・江美はこれからバイト先へ向かおうとしている・・・15歳でなんのバイトができる?誰だってそう考える・・・
しかし江美だからこそ出来るバイトがあるんだ・・・
江美の生まれつきもったこの体つき・・・普通の20代の女性でもそんなにいない。
そう、江美は夜の仕事をしてるのだ・・・
「はじめまして〜。」
・・・また来てしまった。もう来ないと決めたはずなのに・・・
「え〜と・・・江美でぇす。よろしくぅ」
「おう!こちらこそ江美ちゃん!」
・・・もう私にはこれしかないんだ・・・。
我慢、我慢。もうなれた・・・なれた。
そう自分に言い聞かせてる・・・。
いつからかな・・・
本当の自分を隠すようになったのは・・・
もっと前向きに生きたい・・・生きたいけど・・・自分が誰か分からなくなってしまった・・・何が正しくて何が間違ってるのか・・・
私には分からない・・・
でも、ずっとこのままで良かった・・・何も分からなくて良かった・・・
君を失ってしまうのなら・・・




