魔神公爵の気まぐれスローライフ(釣り1)
前回のあらすじ:魔王をひざまずかせた
「今日は三日ぶりに、いい天気ですね。あなた」
「ああ、いい天気だ。木漏れ日が実に気持ちがいい」
数時間前、
ブラックは漆黒の翼を広げ飛んでいると、
いい川を見つけた。
近くの街で、鍛冶屋の娘と調達し、
川で釣りをすることにした。
鍛冶屋で出会った娘の名は、セラフィーヌ。
栗色の髪をしたそばかすが目立つ女だった。
鍛冶屋の娘のわりに華奢で、
貧しい家柄のため、
身に着けた服はみすぼらしかった。
「あたし、幸せですわ。幸せすぎて、このまま天子様が迎えに来てしまうのではと思ってしまうんです」
「ははは、それは面白いね。でも天使は怠けものだから、セラフィーヌのところにはきっと来ないよ」
「まあ、酷い」
「あはははは」
竹の釣り竿が引いていた。
大きくしなり、
なんとか近場まで魚を引き寄せるも、
逃げられてしまう。
能力を使えば、
いつでも魚を釣りあげることなどできた。
だが、釣りはそれでは面白くない。
ブラックはそう思っていた。
ブラックはセラフィーヌに膝枕をしてもらっていた。
川のせせらぎと、小鳥の鳴き声が心地よかった。
「あなた、このリール川の伝説を聞いた事がありますか?」
「ルッシャー地方の山麓に住まう、パンツ好きの妖精の話は聞いた事があるけど、リール川の伝説は知らないな」
ブラックは顔を覆っていた麦わら帽子をどける。
「物知りのあなたでも知らないことがあるんですね」セラフィーヌは笑う。「なんでも、このリール川の遥か上流には、竜の巣があり、その産まれた子供の卵の殻が、川を下るうちに、成長し、黄金の魚になるんだとか……そんな伝説がこのリール川にはあるんですよ」
「黄金の鳥ではなく、黄金の魚か……」
ブラックには黄金を作り出すことなどたやすかった。
それに黄金魚を釣ることもたやすかった。
だが、たまには、縛りプレイをしたいという欲求もあった。
それも釣りで。
それくらいまでに釣りには魅力があった。
それから、ブラックは、
毎日、
24時間寝ることなく、
釣りに没頭した。
時間をスキップをすることも出来たのだが、
そんな卑怯な技を使わず、
ただひたすら、能力を使用せずに釣りをおこった。
そして、10日目と10時間。
その時は、ついにきた。
「この強い引きは、かかった!」
竿は折れんばかりに大きくしなった。
ブラックは竿を力強く引いた。
糸が切れないように、
魚の弱るのを待ち、
何度となく、格闘し、
そして、5時間後、
ついに、黄金魚を釣り上げた。
黄金魚の体長はゆうに3メートルを超えていた。
鱗は黄金で覆われ、たくましい体をしている。
背びれと尾びれには幾つも傷があり、
その黄金魚の歴史を語っていた。
能力を使わずに、
釣り上げた快感は言葉に表せないほどすばらしかった。
ブラックは、ちいさな子供のように全身で喜びを表現した。
ウホホ、ウホホと。
その黄金魚を持って、
セラフィーヌの住む町、セントリアに帰ると、
ブラックは称賛され、
その夜、宴が行われた。
次回予告:マッスル、生き遅れ、カイン