魔王に挨拶でもしようか
前回のあらすじ:ひのこの怨念
「ほほう、ここが剣と魔法のファンタジア。噂では、宇宙の法則を壊してしまうという――『天上王子の淫らなブリーフ』があるともいう。ここでは、どんな秘魔法が、どんなチートアイテムが、どんな壊れ武器が俺の前に現れるのか、実に楽しみだ」
ブラックはファンタジアに来るのは初めてだった。
今まで、このようなファンタジー世界に、
幾つもおもむいたことがあった。
次元の違うところで、
幾つもの世界が存在しているのだ。
「さあて、まずはファンタジアの魔王に挨拶にでも行くか」
漆黒の翼を生やしたブラックは、
遥か上空から、魔王城目指して飛んだ。
ワープでも行けるのだが、
ワープだけだと、味気な過ぎるので、
時々、このようなことをする。
魔王城は、数千メートル級の山が連なる山岳地帯の頂上にあった。
堅牢な石作りで、山そのものが城の一部となっている。
マグマの活動がさかんなのか、そこかしこで煙が上がっていた。
本来ならば、この魔王城にくるまでには、
最低でも5つの難所をくぐり抜ける必要がある。
そんなものすべてをすっとばして、
ブラックは魔王のいるデビルマウンテンに来ていた。
「さあて、魔王ちゃんはどこかな?」
ブラックは魔王の位置を探知した。
数秒後、魔王がいる場所を把握して、ワープをする。
ブラックがワープをした先は魔王の玉座だった。
「何者だ!」
玉座に座るブラックを見上げる―ーファンタジアの魔王。
頭からは二本の角が伸び、
目は爬虫類のそれ、
口からは何本も鋭い牙が伸びていた。
深紫の衣に身を包み、
左手には魔法水晶を、
右手にはデッキブラシをにぎっていた。
全身からは闇のオーラが発せられ、
石造りの床が音をたて、ひび割れてゆく。
そこそこつよいのだと、わかった。
あくまで、魔王というレベルでだ。
「俺は、ブラック。魔神公爵だ」
玉座から階段を下り、
石柱に支えられた広大な広場の中心にいる魔王に、
ブラックは言う。
「意味の分からないことを。くおっくおっくおっ、匂うぞ匂うぞ、魔神公爵と言いつつ、脆弱な人ではないか」
「そうだな、人だな。だが、俺は魔神だ」
「くわっくわっくわっくわっくわっ」と魔王は笑う。
その笑いに反応し、
部下がぞくぞく現れた。
その数、数千。
広場は、モンスターで隙間ないほど埋まっていた。
あらゆる種族のモンスターがいた。
ドラゴン族に、ゴーレム族に、
名前を付けるのも難しそうなキメラすら何百といる。
スライム族はもちろんのこと、熟女すらいた。
「戦うのか?別に構わないのだが。後悔することになるぞ」
「ほざけ!」
魔王はデッキブラシを振り上げた。
黒い雷が、バチバチと音をたててブラックに襲い掛かる。
それと同時、
ブラックに何千ものモンスターによる攻撃が、一斉に襲い掛かた。
ファンタジアでは超が付くほどの高等魔法の雨あられ。
それだけでなく、
武器による攻撃もとめどなくブラックに襲い掛かった。
だが、数瞬後、
ひざまづいていたのは、魔王の方だった。
瀕死の重傷を負い、
何千といた部下たちは、
一匹残らず粉々になっていた。
ブラックは玉座から立つことなく、
埃一つついていない。
「なぜだ?なぜ、この魔王がまったく歯が立たないのだ」
魔王は魔剣デッキブラシを地面に突き刺し、
なんとか立ち上がろうとする。
「俺は魔神だ。お前は魔王程度しかない。これでわかっただろう。俺に逆らうことがどれだけ無意味なのかを」
「私を・・・殺すのか?」
「今、お前を殺すことは、佐々下を殺したのと同じくらいたやすいが、それが望みか?」
「私はすべて失った。わが魔王に忠誠を誓ってくれた部下たちを・・・。彼らは、このファンタジアを統治するための要だったんだ」魔王の目から涙が流れた。「彼らを失った今、私はもう生きていてもしょうがない」
「ならば、蘇らせてやろう」
ブラックが指を鳴らすと、
半壊だった魔王城はブラックが破壊する前に戻り、
ブラックが木っ端みじんに吹き飛ばした部下たちは、
何事もなかったかのように魔王の周囲を取り囲んでいた。
それを見た魔王は、むせび泣いた。
「ああ、魔神公爵様。私は、私はあなた様に忠誠を誓います。私どもをどうぞ、ご自由にお使いください」
先ほど、ブラックに攻撃を浴びせた魔王はひざまずき、
魔王の部下たちも皆、ひざまづいた。
ブラックは玉座から立ち上がり、漆黒の翼を広げる。
「別に、お前たちの忠誠などはいらない。ただ、忠誠を誓いたければ、勝手にするがいい。俺は挨拶に来ただけなのだ。まがりなりにも、俺は『魔』の神だからな」
そう言い、ブラックは魔王城から飛び立った。
ものの数分で、
ファンタジアに恐怖を与えていた魔王をブラックは支配したのだ。
次回予告:川、魚、出逢い