忘れられた町での忘れ物(能力クリエイト編:リサイクル)9
前回のあらすじ:スーパーレアを超えたモノ
「あれ、あたし、何でこんなところで寝ているんだろ」
セシルは目覚めると鉱山ふもとの採石場で横になっていた。
太陽は中天にのぼり、随分寝ていたことが分かる。
体を、起こし、周囲を見回し、
自分がなんで、こんな場所で寝ているのか思い出そうとするも、思い出せない。
「あれ、なんで、あたし、こんな服をきているの?」
セシルはボロ雑巾のように汚れた服ではなく、黒の修道服を着ていた。
足にはメイドの靴、頭には猫耳、お尻には猫の尻尾が付いていた。
「いいにおいがする」
以前の、ボロボロの服に比べて、その服はいい匂いがした。
「あれ、これなんだろう」
セシルの首には――ペンダントがつり下がっていた。
魔法文字にも似た子細でかつ、
美しい装飾がほどこされたペンダントの中心には、
緑色の宝石が輝いていた。
「きれい・・・」
宝石は、心に沈み込むような深い緑色を称えていた。
不思議と、それを見つめていると幸せな気分になった。
「お~い、セシルや~い」
声が聞こえて来た。
その声は、何度も自分の名前を叫んでいた。
小さな点ほどしかなかったその人物の姿かたちが明らかになってくる。
ずんぐりとした体形。白い顎鬚。
赤色の分厚い服。
その人は大きく手を振っていた。
見間違えるはずがなかった。
お父さんだった。
「お父さん!」
セシルは駆けだした。
途中、何度もつまずきそうになりながらも、
全力で走った。
セシルの父親も、背に背負っていた大きなリュックサックや、
野党に襲われた時に備えて腰に下げていた武具類を投げ捨て、走って来た。
そして、二人は抱き合う。
廃鉱になった鉱山の影が、二人を優しく包んでいた。
「大きくなったな。セシル」
「うん。うん」
セシルは、父親の服に顔をうずめた。
何日を洗っていないのか、埃の臭いと、汗の臭いと、
父親の吸うたばこの臭いが染みついていた。
それでも、それはセシルにとってすごくいい匂いだった。
涙が止まらなった。
「どうして、どうして・・・お父さん、ずっと帰ってこなかったの?」
「帰ろうと思っても、帰れなかったんだ。戦がすごくてな」
これは、セシルの父親がついた嘘だった。
本当は、帰る気など、なかったのだ。
そのために、セシルを捨て、忘れられた街を出たのだから。
けれど、ある時、どうしようもないほど、セシルに会いたくなった。
自分の生まれた街に帰りたくなった。
ガルハイム王国の城下町にある酒場で、酒をたらふく飲んでいた時だった。
そして、ふと気が付くと、自分は、忘れられた街のそばまで来ていた。
少し前まで、酒場にいたはずなのにだ。
そして、遠くの方で、セシルの姿を発見した。
不思議な出来事だった。
それは、とても不思議な出来事だった。
まるで、神が、生まれた街にかえろと、
セシルを迎えに行けと言っているかのような、出来事だった。
「ごめんな、セシル。寂しい思いをさせてしまって・・・」
「うん、うん」
セシルは自分の服に何度も顔をこすりつけていた。
その時、
ふとあるモノが目にとまった。
いや、太陽の光をあび、多くのあるモノがセシルの父親の目にとまったのだ。
それは、魔法石だった。
いや、それだけではない。
よく目を凝らすと、無数の、それこそ、自分が鉱山で働いていた時、
喉から手が出るほど欲しかった沢山の鉱石すらも、そこら中に
転がっているではないか。
「これは・・・」
「どうしたの?お父さん」
「みんなを、みんなを呼びに行こう。街を復興できる。復興できるぞ」
鉱山ふもとの採石場では、
それこそ、超がつくほどの様々な魔法石、宝石、鉱石が発見されたという。
それから、しばらくして、さらに不思議なことが起こった。
鉱山から再び、鉱石が採掘されるようになったという。
それだけでなく、
水が枯れた土地に、突如、水が湧き出し、
その土地は緑豊かな土地になったともいう。
その後、その忘れられた街は、ファンタジア有数の鉱山の街としてさかえ、
そこの街出身の一人の少女が、一国の女王にまでなったという。
彼女の首からは常に、緑色の輝きを放つ、美しいペンダントがつり下げられ、
彼女の周りには、幸せが絶えなかったいう。
次回のあらすじ:未定




