忘れられた町での忘れ物(能力クリエイト編:リサイクル)7
前回のあらすじ:二つの石から出来たモノ
「やったぞ、やったぞ、やったぞ。『聖なる乙女の魂の石』が出来たぞ」
ブラックは白濁した石を指でつまみながら、喜びを全身で表す。
ブラックの仮説は間違ってはいなかった。幾何学的な石の配置をすることで、レアモノが合成される。さらにそこから、何千回もの実験の結果、幾何学的な形の中で、より美しい?とされる、正多面体の形をとった時、レアをさらに超える、スーパーレアモノが合成されるとわかった。
石の数12個、正二十面体の石配置のときに合成されたスーパーレアモノ――『聖なる乙女の魂の石』はファンタジアでは伝説とされるモノの一つだった。伝説の勇者のパーティーメンバーの一人、聖女マリアンヌが亡くなった時、自らの思いと魔力を宿した石とされている。
それは、持つ者の、魂を癒すという。
「やはりな・・・」
「何がやはりなの?おじちゃん」
鉱山の周辺を意味もなくぶらつき、落ち着いた仕草で石の上に座ったブラックに、セシルは声をかける。
「ああ、セシルか・・・この石は素晴らしいぞ。実に素晴らしく、感情の起伏がほとんどなくなるんだ」
「それって、どういうこと?」
「常に冷静でいれるということだ」
「それって、すごいことなの?」
セシルは、まだ子供だったので、感情の起伏が抑えられ、常に冷静でいれることの素晴らしさがよくわからなかった。
「ああ、すごい。人は、緊張したり、不安になったり、恐怖を感じたり、悲しくなったり、様々な場面で心揺さぶられる。例えば、意味もなく、殴られたりしたら、むかつくだろ。それが身近な奴で、逃げる術がなかった場合、恐怖や不安で押し潰されて・・・」
と言葉を発した時、ブラック――黒峰黒也は中学時代に受けたいじめを思い出した。意味もなくいじめられ、毎日、いじめる奴らに、明日は何をされるんだろうと、布団にくるまり、恐怖と不安と悲しみで押し潰されそうだったそんな日々を――自分の心の奥のブラックボックスにしまっておいた、その記憶を思い出した。
嫌な記憶を思い出し、怒りのあまり、すべてを破壊したくなった。
しかし、『聖なる乙女の魂の石』効果によって、怒りは消え去り、なんで、こんなことを話しているんだろう、といった無意味さを、ブラックは感じた。
「さあ、センチメンタルな話になってしまったな」ブラックは立ち上がる。「まだ、『リサイクル』で生み出される極限のスーパーレアは何かを検証はしていない。さっさとやってしまうか」
「おじちゃん・・・」
「ん?」
「あたし、よくわからないけど、おじちゃんも、辛い過去があったんだね。物が食べられなかったり、いろんな人に、無視されたり、いろんな人にひどいことされたり・・・えっと、えっと・・・え?」
ブラックは、セシルの頭を撫でていた。
埃に汚れ、艶を失った髪をブラックは優しく撫でる。
「俺のことなんて、大したことじゃないさ」ブラックはセシルの頭をポンポンと叩いた。「さあ、最後のスーパーレアモノが一体どれほどすごいものなのか、調べてみるか。言っておくけどな、『聖なる乙女の魂の石』を出すのだって、何千回もの施行を繰り返したんだ。今度はもっと大変だぞ」
ブラックは、そうは言いつつも、この場所に長居しすぎてしまったと思っていた。
このような長居したことで、以前、嫌な経験をしたような気もした。
仲良くなったセシルとの別れを思うと、少しだけ悲しいような気もしたが、
その悲しみは、次の瞬間には消えていた――『聖なる乙女の石』の力によって。
次回予告:夜、緑、過去




