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忘れられた町での忘れ物(能力クリエイト編:リサイクル)1

前回のあらすじ:ホワイト

 そこはさびれた町だった。


 人口は300人程度。


 鉱山が盛んだった町だった。




「ファンタジアの中央部、ガルハイム王国西にある山麓に囲まれた小さな町・・・名前はハーリッシュ。別名、『忘れられた町』か・・・」


 ブラックは忘れられた町を歩いていた。砂は乾き、立ち並ぶ家は今にも倒れそうなほど、どれもボロボロだった。酒場に入るも、客はおらず、出された酒は、アルコールの精製方法が悪いのか、古いのかはわからないが、金属の味がした。




 町はさびれていた。


 通りには誰も歩いておらず、たまに見かける町人は、日の当たらない軒下などで、死んだように眠りこんでいた。


「おじちゃん、ごはんちょうだい」


 欠けた皿と、曲がったスプーンを持ち、10歳くらいの少女がブラックに物乞いをしに来た。


 髪は砂で汚れ、着ている服はまるでボロ雑巾のよう。半袖の裾は破れ、服には所々穴が開き、元の色が何だったのかわからない。スカートから伸びる両脚は、やせ細り、靴は履いていなかった。


「いや、今は何も持ち合わしていない」


「そう・・・」


 少女は、目を伏せ、悲しそうにつぶやき、ブラックから離れて行った。後ろで結いだ三つ編みが、風に揺れていた。


「何もない町だ。砂、石、ゴミくらいしかない」


 町だけでなく、周囲にもほとんど何もなかった。さびれた町周囲を囲む山は開拓された鉱山であるためか、木一本として生えていない。さらに、降水量が多い地域ではないので、川も流れていなかった。水分含量の少ない、栄養の乏しい金属質の砂は、もちろん植物の生育環境としては最悪で、雑草がちらりちらりと顔を出しているくらいだった。


 まさに、生きていくのには最悪の環境だった。




「さあてと、俺はこの町で、どんな楽しみをみいだせばいい」


 ブラックは町を歩いた。死者のように眠る町人と、今にも崩れそうな家くらいしかない。楽しめるものは何もなさそうだった。


 ふと、ブラックの目にあるゴミ箱が目についた。


「ゴミ箱・・・」


 蓋を開け中を覗くと、紙や、食べ物の切れ端、砂や、泥、さらにはモンスターの皮が入っていた。


「ぐっ・・・」


 それは目をそらしたくなるくらいの悪臭を放っていた。目を凝らすと、蠅もたかっていた。


「さあてと、このゴミどもがいったいどんなものに生まれ変わるのかな」


 ブラックは、新たな能力を創造した。


 その能力の名前は、『リサイクル』。関連性のない様々なものを、再利用したら何になるのかという、発想から生まれた能力だ。


 鼻を左手でつまみ、右手をゴミ箱の上にかざす。


 白い光が、ブラックの右手を包み、それが、ゴミ箱へと流れ込んだ。


 すると、鼻をつまんでいるのに、いい香りがした。


 深みがある芳醇な香り。


 ゴミ箱の中をゆっくりとのぞくと、そこには、色鮮やかな料理が湯気をたてていた。


「はっ?」


 意味が分からなった。ゴミ箱の中にあったものは、関連性のないゴミばかり。それを新能力『リサイクル』を使用したら、鼻孔をくすぐり、今にも涎が出そうなほど、おいしそうな料理になっているではないか。


 それは、魚料理だった。


 暴れマグロに似た魚で、赤いソースがふんだんとかけられ、トッピングには、黒いキノコが添えられていた。ソース表面には、黄色い香辛料が振りかけられ、あまりのおいしそうな見た目に、ゴミからできたものだということを忘れ、ブラックの手が自然と伸びていった。


 魚の身を指ですくい、ソースを絡め、口へと運ぶ。


「ぐおっ!」


 思わず声が出た。まずくはない。決してまずくはなかった。


 不思議な味がした。今まで食べたことがない味。それはゴミを『リサイクル』で処理したためなのか、とブラックは思った。


 ふと、ブラックの脳裏に、物乞いをした少女の後ろ姿がうつる。


 今にも倒れそうな体。砂で汚れた肌、風になびく三つ編み。


 気がつくと、ブラックは料理が入ったゴミ箱を持って、少女のところに向かっていた。




 少女は、町の入り口で座っていた。足元には、かけた皿と、曲がったスプーンが置かれていた。


 ぼんやりとした目で、少女は遠くを見つめている。


 町に訪れる旅人を待っているのだろう。


「別にお前のために、創ったわけではない。たまたま、できたから、お前にやるんだ」


 ブラックは、ゴミ箱の中から、少女の皿に料理を流し込んでやった。


 その料理を見た少女は、目を輝かし、ブラックを見つめる。色を失っていた瞳は、陽の光のせいかのか、輝いていた。


「別に、感謝入らない。さっさと食べろ」


「う、うん」少女は首を振り、「おじちゃん、ありがとう」


 そう言い、皿の中にある料理を勢いよくかきこんだ。


 目から、涙を流し、嗚咽を洩らしながら、食べていた。


「ゆっくりと食べろ。誰も、その料理をとらない」


 ブラックは、視線を遠くに向け、呟く。


 本当に、なにもない街だ。


 目につくのは石ばかり。


 そうは思いつつも、ブラックの心は踊っていた。


 新たな能力――『リサイクル』がどんな楽しみを自分に提供してくれるのか――楽しみで楽しみでしょうがなかったのだ。




次回予告:女の子、オーク肉、発見

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