毎日、たるい。
前回のあらすじ:裏切り者を消す
「け、今日もたるいぜ」
新町茂は、コンビニのベンチに座り、
煙草をふかしていた。
歳は17。
毎日、生きるのがたるいと思っていた。
「お隣、いいですか?」
スーツ姿の男がきいている。
髪は金髪、瞳は碧眼。
背がかなり高く、ほっそりとしている。
コンビニの照明のせいなのか、肌は恐ろしく白く見えた。
「ああ、別にいいけど」
新町はベンチの脇による。
「あの~、最近どうですか?」
「あん?何が?」
新町は、自分の茶髪を撫でながら言う。
やけに馴れ馴れしい奴だなと思った。
「最近は、いじめをしていないんですか?」
「ああ、そんなことか。最近はしていないな。つるんでいた奴らが忙しくて、あまり会うことが出来ないからな。それでも、お互いたまにスカッとしたくて、三輪車をすっとばしてカモリに行くことはあるけどさ」
新町は、なんで、こんなことを話しているんだろうかと思った。
それも、さっき会ったばかりの男にだ。
言葉が自然と出てきてしまう。
「そうですか・・・ところで、黒峰黒也という男を覚えていますか?」
「黒峰黒也?ああ、中学のときにそんなカスがいたな。たしか、内気で目立たない奴だった。俺たちのカモにはもってこいの奴だったぜ。暇があれば、何度もそいつをボコりにいったっけ」
けけ、と新町は黒峰をいじめた時の出来事を思い出して、笑った。
「そのカスを使って、沢山ゲームをしたな。画鋲ゲームに便所ゲーム、パシリに女子の前での土下座、アイツの乙女ゲーでずいぶん楽しんだりもした。でさ、笑えるんだけど、ある時、アイツがこんなことを俺に言ってきたんだ。『どうして僕にこんなことをするんですか?』って。手を震わせ、泣きそうな顔でだぜ。それで、俺は言ってやったんだ。『お前が中一の時、俺にバトン部に入るの、だっせ』と言ったからだって。アイツはぽかんとした顔をしていた。そんなこと言った記憶がないって顔をしていた。そりゃあ、記憶がないのは当然だ。そんなこと、俺に言ってやしないんだからな」
新町は息を荒げていた。
「それからは、もう一方的なものよ。で、そんなカスがどうしたんだ?」
「実は、僕は黒峰黒也なんです?」
「あん?」
「随分、見た目が変わってしまったかもしれませんが、僕は黒峰黒也なんです。今はブラックという名で魔神公爵をしています」
こいつが黒峰黒也?
それに、魔神公爵でブラック?
頭がおかしいんじゃないのか、と新町は思った。
「ははは、面白い冗談だ。あんたが、黒峰黒也で今の名前がブラック。そりゃあすごい、アイドルですらびっくりの全身整形でもしたのかよ」
「能力で見かけを変えました。『あなたの思うがままの姿になれます』という名の能力なんですが、これは身長から体重、年齢はもちろんのこと、性別から外見、果てはどのような種族になるのかまで自由自在に決めることができるチート能力なんです。なので、新町君も、本来あるべき姿に変えてあげますね」
ブラックがそう言うと、新町の体は急に小さくなっていた。
体長は三センチほどで、気がつくとブラックを見上げ、声を出そうにも「ゲコッ、ゲコッ、ゲココ」と鳴くことしか出来なくなった。
わきには自分がつけていた銀色のピアスが落ちていた。
体の半分くらいの大きさだった。
突然、巨大な靴が自分めがけて落ちて来た。
反射的に、四肢を使い、避けることに成功。
ただ、何故、自分はカエルのように飛んでいるのかという、
疑問がふと浮かんだ。
「残念・・・ブチッとしたかったのに」
「ゲコ、ゲコゲコ、ゲコ、ゲコ」
「ああ、そうですか、そうですか、危ないですか。あ、そうだ、いいことを思いつきました。このまま踏み潰すことなく生かしてあげます。その方が、絶対に辛いでしょ」ブラックはくくくくく、と笑う。「カエルでの一生。道路では車が走り、カエルを餌にしている動物はそこら中にいる。もし、運が良ければ、同種のかわいい女の子に会えるかもしれませんがね、ははははは。では、せいぜい、惨めに生き抜いてください・・・」
ブラックはふっと消えた。
新町は、ゲコッゲコッと鳴き続けた。
すでに、人間としての思考はなくなっていた。
次回予告:悪役令嬢、香り、百万円