悪役令嬢ひのこ、底辺からスタートします(悪役令嬢底辺編)
前回のあらすじ:王子と新領域に
100人との男性と、1000人の女性に酷いことをしてしまった私は、
誰よりも美しく清らかな――ブラック様に、
私が犯した数々の酷い行いを指摘され、
婚約破棄されました。
数々の罪を償うため、
私はまず自分の血筋が築き上げてきたものを、
両親の相談なく勝手に、処分しました。
そのことに、気がついた両親は、
酷く哀しみ、
また、酷くお怒りになり、
私は家を追い出され、
独り暮らしをすることになったのです。
「ねえ、ちゃんとお客様に笑顔であいさつしなさいよね」
マクゴナグゴでバイトし、
生計をたてている私は、よく叱られます。
「す、すみません」
「まあ、いいけどさ。気をつけなさいよね」
お客様への笑顔。
プライドが高く温室育ちの私は、
うまく笑顔が作れません。
なので、しばしば、こういった些細なことでよく叱られます。
「ねえ、あんたの家、お金持ちらしいけど、どうしてバイトなんてしているの?社会勉強か、なんかのつもり?」
「いえ・・・とある事情で、家を追い出され、生活するのにお金が必要で・・・」
自分の犯した罪を洗い流すためとは、
私は口が裂けても言えません。
「はあ?それって、マクゴナグゴのバイトだけじゃ、無理じゃん。薄給だし」
「はい、他にもバイトを四つほどかけもちしています」
「え?四つ?学校は行っているの?」
「はい」
「そんなの・・・体壊しちゃうじゃん」
「いいんです。私、それくらいのことをしてきましたから・・・」
あっ、と私は思いました。
うっかり、変なことを口走ってしまったのです。
しかし、バイトの先輩はそのことに気がつかず、
私が実家で犯した問題について言っているのだと思ったようです。
「いろいろ大変なんだね。さっきは強く言ってごめんね」
「いえ、いいんです」
私は100人の男性に酷いことをし、1000人の女性を傷つけました。
強く言われるのは、当然なのです。
マクゴナグゴのバイトは夜の9時に終わりました。
私は、とぼとぼと帰路についていると、
とあるコンビニの前で、ある女性を見ました。
その女性は、ちょうどコンビニで買い物を終え、出てきたところでした。
「・・・・・・ちゃん?」
気がつくと、私は走り出していました。
その女性に向かって、叫んでいました。
「あれ、ひのこちゃんじゃない、久しぶり。何年ぶり?小学校以来じゃない?」
その女性は、私が551番目に酷いことをした女性でした。
「はあ、はあ、はあ、はあ、ごめんなさい。沙耶ちゃん。あの時、貴方の好きだったケイ君を奪い取って、はあ、はあ、本当にごめんなさい。あなたの目の前でケイ君と触れ合って、ごめんなさい」
私の目から自然と涙が零れ落ちます。
私にこのようなことを言われると、予想だにしていなかった沙耶ちゃんは、
「え~、もういいよ。あの時のことは。えっと、気にしていないからさ」
と優しく言ってくれました。
それが、沙耶ちゃんの本当の気持ちかどうかはわかりません。
けれど、私の心は少しだけ軽くなったような気がしました。
私の残りの罪は、男性100人、女性999人です。
(私との婚約破棄したブラック。私は、あなたが求めるような女性に必ずなってみせる。そして・・・)
次回予告:眼鏡、マリア、テスト