偽勇者御一行様――仲間募集中
前回のあらすじ:勇者ガンバレ
――勇者は祭り上げられて、どこでも生まれる――
ブラックは、ファンタジアで有名な勇者一行が向かっているという、
強者の塔に向かった。
遊び人に装ったブラックは、強者の塔手前で勇者に声をかけた。
「すみません、すみません、勇者様。私め、勇者様に憧れ、もくもくと修行をつんできました。必ずや勇者様の戦力なりますので、仲間にさせていただけないでしょうか?」
突然、声をかけられた勇者一行は明らかに警戒していた。
ブラックに聞こえないように、ひそひそ話をした勇者一行は、
「ああ、いいぜ。だけど、お前は荷物持ちだけどな」と勇者は言い、
ブラックは仲間に加わることが出来た。
勇者一行のパーティーは強力なメンバーで固められていた。
勇者アレンは王族生まれで、装備は一級品。
将軍レオンは、勇者アレンの生まれ故郷で名を上げた武人。
女武闘家ア―ニャは、有名な武闘家一族の師範代。
男賢者ルイスは、僧侶から賢者に転職したエリート。
だが、ブラックの目は、彼らがまだ、
強者の塔をクリアーできるレベルに達していないことを、
見抜いていた。
「おい、早く来いよ。ウスノロゴミクズ」
勇者一行の重い荷物をすべて持たされたブラックは、
重い足取りで強者の塔の階段を上った。
もちろん演技だ。
何度となく敵に遭遇した。
そのつど、ピンチに陥っていたが、
こっそりとブラックが加勢し(勇者一行に分からないように)、
モンスターたちを撃破していった。
そんなこと知らない、勇者一行は
「ほらほら、思った通り、噂なんて当てにならないのよ。私たちなら楽勝、楽勝、向かうところ敵なし」と浮かれていた。
強者の塔29階。
最上階を攻略する前に、
結界エリアでキャンプが張られた。
皆が寝静まった時間帯、
ブラックは焚火の前で勇者アレンと話をした。
「ぐずな、お前のせいで、塔をのぼるのが遅くなったじゃないか。せっかく仲間に入れてやたんだから、もっとしっかり歩けよな。むしろ走れよ」
勇者アレンはブラックに文句を言った。
「す、すみません。荷物があまりに重くて、さすがに、勇者様御一行すべての荷物を持ち運びするのは、大変すぎます」
「すみませんじゃね~つ~の。荷物持ち以外で、お前程度の奴がどこで活躍するってんだよ。こっちとらさ、ファンタジアの命運を背負っているんだぜ。それに比べたら、荷物なんて軽いもんだろ」
その後、ブラックはアレンの小言を聞かされた。
数時間にも及ぶアレンの愚痴を聞いたブラックは、次のことを訊いてみた。
「アレン様はどうして勇者をなさっていらっしゃるのですか?」
「そりゃあ、親の命令かな。まあ、でも最近は勇者も悪くないかなって思えるようになってきたぜ。モテるしな。ある程度名が上がれば、いろんな特権が与えられる。ただ酒に、ただ飯に、ただ宿、ただで女が抱けるんだぜ」
「…………」
「お前だって、こいつらと同じように、俺の威光を目当てに近づいて来たんだろう? でも甘いな。人は生まれながらに、運命は決まっているんだ。お前の運命は、俺の壁になること。このファンタジアは、魔王をたおす勇者を求めているんだ。何よりも、優先すべきはこの俺。せいぜい、いい場面で、俺の壁になってくれよな」
ポンポンとブラックは肩を叩かれた。
次の日、強者の塔三十階のボスとあいまみえた。
獣人王キングギガンテスの黄金の槌による攻撃と、
暗黒賢者ヴァ―ムの合体魔法の前に、
勇者一行はあえなく全滅した。
遊び人ブラックは、彼らが全滅する姿を、
最前線で見ていた。ただの壁として。
壁は手を出すことはしない。
だから、身動きをせずに、
最前線で突っ立っていたのだ。
それでも、勇者一行はあえなく全滅してしまった。
勇者がまた一人死んだ。
そして、
また新たな勇者が一人生まれるだろう。
祭り上げられることで。
次回予告:キス、キス、キス