勇者御一行様――仲間募集中
前回のあらすじ:スライムうまかった。
「早く、勇者を処分してないと、暗黒熟女に言いつける」と父上に言われたブラックは、
そろそろ勇者と顔をあわすかと思い、
とある勇者一行がいるバサラ草原に向かった。
彼らは次の街に向かう途中だった。
勇者を含め、パーティは三人。
勇者、女剣士、男魔法使いの三人だった。
どうやら、前の街で、
仲間だった女盗賊に金を盗まれ、
パ―ティーを抜けられたらしい。
ブラックは、ピエロの格好をした遊び人を装い、勇者に近づいていった。
「すみません、すみません、勇者様。私めを仲間にしてくれませんか」
「うん、いいよ」
齢12歳ほどの勇者は、人を疑う心を持っていないのか、
あっさりブラックを仲間にした。
「ようよう、遊び人、俺様の荷物を持てよ」
男魔法使いポッポは、ブラックに巨大なバックを渡してきた。
「あ、いいね、それ。私の荷物も持ってちょうだい」
女剣士ルージュは、剣と盾と下着をブラックに渡してきた。
「アルフレッドは何か、この新入りに持たせないの?」
「僕はいい」
勇者アルフレッドは、先頭に立ち、黙々と歩いていた。
遊び人ブラックは、荷物持ちの役割を担い、勇者一行と旅をした。
勇者アルフレッド以外は正直、ゴミカスだった。
イルダの酒場でゴミカス――ポッポとルージュを仲間にしたのだろうが、
どうしてもう少しまともな仲間を選ばなかったのかと、
敵ながらブラックは思った。
夜までに戦闘は三回あった。
人食い鴉や、巨大キノコ、覆面おやじ程度の下級モンスターしか、
戦っていないにもかかわらず、
勇者のパーティーはイッパイイッパイだった。
戦力となるのは勇者アルフレッドただ一人。
女剣士ルージュは筋力不足で、鉄の大剣ですら上手に扱えず、
危険になるとすぐに逃げ惑うだけで、壁にすらならない。
男魔法使いポッポは攻撃魔法を覚えておらず、
補助魔法しか使えなかった。
戦闘においても、勇者アルフレッド以外は、ゴミだった。
夜、たき火をかこみながら、勇者アルフレッドとブラックは話をした。
「今日は、ごめんね。迷惑をかけちゃって。僕にもう少し力があったら、ブラックさんに負担をかけずにすんだのにね」
ブラックは、おっと思った。勘がいい。
「いえいえ、ブラックは世界をまたにかけてぶらぶらしている、所詮遊び人。勇者様、ブラックは何もしておりません。気のせいでございますよ」
「あはは、うん、そうだね。ありがとう、ブラック」
やはり、まだレベルは低いが、
勇者アルフレッドには他の勇者とは違う何らかの才能がある、
とブラックは感じた。
「あの、おききしたいことがあるのですが。勇者様は、どうして勇者におなりになったのですか?」
「あのね、ある日、夢の中でね『あなたは勇者です。旅立ちなさい』と言われたんだ。それで、旅に出たんだ」
勇者アルフレッドははねた髪をかきながら言う。
「夢でございますか?お父様も、お母様もおとめにならなかったのですか?」
「うん、旅に出るが当たり前だと言わんばかりに、気持ちよく送り出してくれたよ」
「夢の声の主は男でしたか?女でしたか?」
「わからない。でもすごくいい声だった」
「そうでございますか」
神の啓示か、とブラックは思った。
「でも、旅に出たのはいいけど、全然うまくいかなんだ。僕がファンタジアを救わないといけないのに、全然うまくいかないんだよ」
「もう少し、まともな仲間を集められては……さすがに、彼らはひどすぎます」
ブラックは、モンスターに襲われた時を想定せず、
不用心にいびきをかいて眠っているゴミのことを言う。
「ははは、僕には彼らでも十分すぎるよ」
「信じれば、裏切られます」
勇者アルフレッドははっとした顔をする。
仲間だった女盗賊に金を盗まれたことを思い出したらしい。
「でも、それでも信じたいんだ。僕は……」
「そうでございますか」
次の日、陽があける前に置手紙をし、ブラックは勇者一行から離れた。
――私めは、遊び人でございます。しばらく、遊びにでかけてきます。
向かうは、ボインボインがある場所でしょう。
未来のことは、まだわかりませんが、
機会があれば、またお会いしましょう
遊び人 ブラックより――
ブラックは、勇者一行を離れる時、
ファンタジアで見つけたコレクションの幾つかを置いてきた。
それが敵に手塩を送ることだとしても気にしなかった。
「弱すぎる敵と戦っても楽しくない。成長しろ、勇者アルフレッド」
次回予告;偽勇者、将軍、賢者