幻の食材(グミグミのアレ編2)
前回のあらすじ:スライム、食べたい。
コークタウンを北へ5日、
氷山の壁を越えてさらに5日、
深淵の森に入ってさらに3日いった場所に、
深青色を称える――『深淵の花』という名の湖はあった。
周囲は山に囲まれ、
深淵の森に覆われた湖のほとりで、
ブラックは満月の夜に素っ裸となり、
「えっほっほ、えっほっほ」と、ハッスルダンスを踊っていた。
それによって出現したモンスターは、
ジャイアントスライムくらいなもので、
あとは、ブラックの恐ろしさに身を隠し、
遠くからブラックの行動を監視しているエルフくらいのものだった。
「まあ、わかっていたことだがな」
ジャイアントスライムの肉を頬張りながら、ブラックは呟く。
数百匹ものジャイアントスライムをたおした。
ジャイアントスライムには♂と♀があり、
♀の方が肉はやわらかく美味だった。
200匹に1匹という割合で、
♂のジャイアントスライムは、スライムの玉冠を落とした。
これはそこそこレアドロップアイテムで、
アイテムコレクターでもあるブラックにとって、
『深淵の花』におもむいた収穫としては、それほど悪いものではなかった。
「さてと、どうやら、酒場の親父の情報にデマが混じっていたらしい。どうしたものやら」
モンスター図鑑(完成版)を『能力創造』で創りだせば、
問題はたやすく解決できるのだが、
ブラックは食材を探し求める楽しみと、
苦労してそれを食した時の喜びを感じるために、
地道に探し回ることを決断した。
10の大陸と、100の街を渡り歩き、
最終的に、目的の食材を手に入れるために三日も費やしてしまった。
その幻の食材は遥か深海に棲息するスライムだった。
名前は――チョウチンスライム。
目は退化し、額からのびる突起が発光する。
そして、その光に誘われた餌を食す。
スライムにしてはかなり獰猛なスライムだった。
スライムには珍しく、立派な歯が蓄えられていた。
「どれどれ、このチョウチンスライムは、どのような味の喜びを示してくれるかな」
まずは、チョウチンスライムの刺身を醤油につけて、
ブラックは食した。
ドブ色で決して見かけがいいとはいえない身の色だった。
「何という美味。実に、うまい!」
深海に棲息しているということもあり、
身がしまっており、脂がのっていた。
歯ごたえ十分。
噛めば噛むほど味がしみでてきた。
次は塩焼きにして食した。
炭火でじっくりと焼き、
レインボーアイランドでとれる希少な岩塩で味付けをし、食した。
これも絶品だった。
ソテーからムニエル、スープにして食べもしたが、
どれも申し分なかった。
経験上、深海に棲息するモンスターには外れが少ない気がした。
チョウチンスライムの部位の中で、
もっとも美味だったのは、
額から伸びたチョウチンだった。
特に、丸み帯びた先端が、
恐ろしいほどの珍味でもあり、
表現するのが難しい味だが、
今まで食した食べ物の中でベスト3に入るほど粘り気があった。
ところでだ、
なぜ、酒場の親父がデマ情報を教えてきたのかというと、
酒場の親父自身がデマ情報をつかまされていたからだった。
口伝えの情報は、人を経るごとに微妙に内容を変えてゆく。
幻のスライムの情報は何百人もの口を伝い、
広がっていったものだが、
そのデマの変貌の仕方は一般的なものとは違った。
どう違うのかというと、発信源そのものが、デマだったのだ。
その根幹にある原因は、チョウチンスライムをはじめて食べた漁師が、
そのうまさを独りじめにしたいという欲求から生じたものらしい。
だが、その漁師は貧しく、
金も欲しかった。
そこで、神が創造し、
今ではこのファンタジアには存在しないエンジェルスライムの名をつかい、
とんでないデマを流した。
その結果、
その漁師はチョウチンスライムを独占し、
また大金を手に入れることに成功した。
今、その漁師は、おっぱいパブを経営しているという。
ブラックはチョウチンスライムの歯を油で揚げて、
すべてたいらげた。
「ふう~実にうまかった。で、神が創りだしたエンジェルスライムか。いったいどこにいるやら」
エンジェルスライム――それは神が創造した伝説のスライム。
何千年前に勇者の願いを叶え、この地上から完全に姿を消したという。
そのスライムは、どんな願いも半分だけ、叶えてくれる――らしい。
しかし、そのスライムを見た者は誰もいない
次回予告:勇者、戦士、魔法使い