俺は、帰って来たぞ!
「はははははは――――醜き地球よ!俺は、帰って来たぞ!」
元地球人で日本人――黒峰黒也は、
宇宙から地球を見下ろしていた。
地球にいたころはいいことなんて、何もなかった。
いじめられっ子でかつ不登校児。
もちろん、女性にもてたことなど一度もなかった。
そんな駄目駄目な黒也は、
ある日、恋愛ゲームをしていたところ、
異世界転移させられた。
そして、数年後、
『能力創造』の力を手に入れた魔神公爵――『ブラック』という名をかかげ、
地球に戻って来たのだ。
「さてさて、俺がまずしたいこと、それは、世界をひざまづかすこと!ならば、俺にひどい目をあわせたゴミムシ漂う地球を破壊してやる!』
能力発動――『ラグナロク』
青く輝く地球表面を漆黒の雲が覆ってゆく。
渦を巻くその雲は、地球をねじりしぼり、
やがて、雲の隙間から、
白く赤い光が幾筋も、宇宙へ解き放たれた。
そして
――次の瞬間、
地球は大爆発を起こし、宇宙のもくずとなった。
ブラックの野望は達成されたのだった。
【The end】
「・・・・・・・・・
・・・・・・
・・・いやいや、俺がしたかったことはこんなことではない。さあ、復活せよ、地球!」
能力発動――『エンジェル・キュア(∞)』
宇宙に散らばった地球の無数の破片が、
地球が存在していた場所に集まりだす。
一つ、一つと、ブロックのピースを重ね合わせるように、
地球が復元されてゆく。
丸い地球。
石の塊で、まだ生命を宿していない地球。
その周囲を、命を想起させるかのような緑色の膜が包んでゆく。
ブラックがまばたきをした次の瞬間には、
生命を育む青く輝く地球が何事もなかったかのように、
ブラックの眼下に輝いていた。
「さて、一度地球を破壊し、もう満足した。次は、俺を裏切り、傷つけたカスどもを処分しにでもいくとするか」
宇宙から地球を見下ろしていたブラックは、
『ワープ』をした。
転移先は、東応都東町一丁目にあるとある一軒家――その二階。
佐々下博はPCゲームをしていた。
「クソ、なんだよ。またチーターかよ。オートAIMと壁貫通を使っているんじゃね~よ」
今はやりのFPSで、チーターにキルされた彼は、
ヘッドホンを机に叩きつけた。
「こんばんわ、佐々下君」
突然、声をかけられた佐々下はびっくりして、
椅子から転げ落ちた。
「お、おい!誰だ!お前は」
ズレた眼鏡を佐々下はかけなおす。
「あれ?覚えていないのかい。そうか、随分と容姿が変わってしまったからね。今は金髪碧眼、外人モデルすらびっくりの超絶イケメンだろ。でも、こうすればわかるかな」
ブラックは自分の顔を手で触る。
すると、以前の冴えない黒峰黒也の顔に戻った。
「黒也、お前・・・。お前は3年前、女子更衣室で神隠しにあったはずじゃあ」
ブラックが再び手で顔に触ると、
金髪碧眼超絶イケメンのブラックの顔に戻った。
「女子更衣室で神隠し?いや、正確にいうと、自宅トイレで暗黒女神にさらわれ、魔神界に行っていたんだよ。で、ついさっき帰って来たわけ」
「魔神界ってふざけているのかよ・・・で、久しぶりに帰って来たお前が、俺に何の用だよ」
「佐々下君に会いに来たのは、復讐のためだよ」
「復讐?」
「そうだよ。仲が良かったのに、僕がいじめられているとき、僕が便所の便器に顔を突っ込まれて苦しんでいるのに、君は何食わぬ顔でスルーして、助けてくれなかったよね」
「ああ、あの時のことか。あの時は、口笛を吹きながらスルーするしかなかったんだよ。そうしないと、俺が目をつけられるだろ。俺、便所の便器に顔を突っ込みたくなかったんだ。だって、汚いだろ」
佐々下は、艶やかな黑髪を撫でる。
「そうだね、その気持ちはすごくわかる。わかっていたよ、佐々下君」
「な、なら、俺を許してくれるのか?」
「僕を抱いてくれるなら・・・」
「はあ?いや、それは・・・無理だ。だって、お前、男じゃないか」
「うん、君なら、そういうと思っていたよ」と言い、ブラックは指を鳴らした。
すると、佐々下の体は木っ端みじんに吹き飛んだ。
PCモニターは血で真っ赤に染まり、
机を伝い、血が床に滴り落ちていた。
頬についた血をブラックはのばす。
「まずは一人目」