母の日 記念ss
話と全く関係ないけど、僕は魔王が完全な悪とは思いませんし、魔王は意外といい存在だと思っています。その理由は、魔王がいることで魔物が動き、それにより自衛の力が上がります。あと個人的にすごく好きなんですよ!
今日は母の日である。
異世界の民が、この世界にいない母親を偲び、この世界に産んでくれた母を感謝する日。
母に贈るべき花は、ウィルカリットと呼ばれて自分が伝えたくても伝えきれない思いを完全に伝えてしまう魔法の花。花言葉は「本音」
ウィルクネーゼ公爵家にも母の日に贈り物をしようとする1人の可愛らしい少女がいた。
スラムと呼ばれるが実質スラムともいえない街にもドンと呼ばれる青年がいた。
ドンと呼ばれる青年は母が病に倒れて以来、父はどこかに消えていなくなってしまった。噂では母を捨てて別の女を嫁に迎えたといわれているが関係ない。だって、僕の父親はそいつではないのだから。僕の父親は僕にこの龍と仮面を被った道化のエンブレムを置いて僕を捨てた。
僕にとってこの母の日だけが、親から手紙を送っても許される日だ。身分差もほとんど消えているこの国ですらも、多少は残っているのだ。
僕が異世界からの転生者であっても何も関係ない。自分にはカリスマというモノがあったらしい。この力で、スラムの意気軒昂としていた少年少女を集めて、秘密結社を立ち上げた。
このスラムは不毛の地である。このスラムは敵に奪われたとき作戦にするため開拓が許されていなかった。ただし、魔物の多い森からの採取は許されていたが死と隣り合わせなのだ。
もしも、神様が意図してこの世界に送り込んだのなら、僕は戦ってやる。僕の仲間を守るために...
僕は、母親の病気を和らげるために薬師のエリュドーンバァさんに薬の使い方を教わっていた。
エリュドーンバァさんから呼び出されて家まで行くと、エリュドーンバァさんの一番弟子のケントが、変なことを言う。
「師匠が死んだ。もう年だからな、お前を呼んだのは、薬の智慧を贈るためにだ。これは師匠のみならず、俺たち弟子の総意だ」
「は?師匠が死んだとか嘘だよな。昨日まであんな元気だったのに、は、なんで僕に智慧を受け継がせる?普通ケント先輩じゃないですか?僕には、その理由がわからないのです」
僕は驚きながらも、落ち着こうと呪文のように唱えて疑問を先輩に言う。普通は一番弟子ではないだろうか、僕が才能があったらまだしも、中の下である。
「今日は母の日だろ。師匠がお前のことどう思っていたか知っているか?息子のようだと。まだまだ未熟だが、いつか世界に名を轟かせる大人物にあの子はなってくれるって臨終の際に言ってくれたんだぞ。お前は師匠の思いを踏みにじるのか?」
僕はそう言う。
「わかった。受け継ぐよ。師匠、ありがとう」
師匠の家に行くと纏められた小綺麗なノートが積み重なっていた。その上に手紙が置かれていた。
「セシオン、いや、ドン、儂の可愛い弟子よ。君がいつまでもあのことを悔やんでいると儂は知っているよ。妹も母も流行病の治す薬を試行錯誤の末に作れて大喜びして、でも君が薬を手に携えて家に帰った時には、母は血まみれになって殺されていて、妹も、殺されてしまってあなたは涙を流し続けていたね」
僕は、そこまで言うと手紙を涙で濡らしていた。
いつまでたってもこの悲しい思い出は頭の中から消えてくれないなぁ
僕は立ち直って、誰もいない家に戻る途中に花屋で貰ってきたコキュロットという死者を正しい世界に導くと呼ばれている墓参りの時に持っていく花を持っていく。
スラム共同墓地に着くと家族の墓に花を捧げて黙祷をする。もはや戻ってこない家族に対して悔やみ続けていた僕は、家族のようなスラムの餓鬼共をまとめ上げ守り抜くのだ。
もともと母は冒険者でスラムを守っていた存在であったがゆえに、絶大な信頼を置かれていた。
僕は、スラムの秘密基地に戻ると、エリューとドラとヴィムが拐われてしまったと部下のリュークから伝えられた。
「しょうがねぇな。野郎共!取り返しにいくぜ。誘拐した連中に、スラムの底力を見せてやれ」
「「「「おぅ、ドン」」」」
一方その頃、リューカが花畑にお花を摘んでいると、なにやら物音が聞こえる。気になって、見に行くとそこには鬼がいた。
「あれは、確か、黒鬼族?そうそうメイドのサラの相棒で、スラムの人間に恩返しがしたくてスラムの用心棒になったが一年前に娘を庇って死んでしまったとか言っていたけど..,」
そう、ドンと呼ばれた青年は、鬼と龍の血を受け継ぐ者。本来は公爵家の一族の長男だったのだが、嫉妬深い妻の嫉妬に怯えて捨てられた少年は、いつしかスラム界のドンと呼ばれて尊敬されていた。
少年の力を見ていて思った。
(あの子は、なんであんなにも泣いているの?)
さて、少年ことドン・エリューカ・セシオンの視点に戻るとしよう。
僕が契約している精霊は、土の精霊と闇の精霊であった。土の精霊と闇の精霊は、スラムの連中を見つけて僕に報告してくれた。僕は、その位置を確認して、自分で全力を常に出してはいけないのだ。だって、僕のこの姿だけは誰にも見られたくないのである。しかしながら、仲間をもう二度と失いたくはないのである。
「いくぜ、僕は闇、僕は光を奪う断罪の化身、善人を守り、悪人を裁く。闇でしか生きてはいけないニクシミタチよ。僕に力を貸してくれ。漆黒の鬼龍獣人、いざ参る!」
鬼の角と龍の鱗と翼と尻尾と逆鱗が身体的特徴に現れて、獣人の身体能力のような身体能力が高くなる。
「エリュー、ドラ、ヴィムどこだ?どこにやった!お前たち」
僕は、駆けつけた時には魔力を抜き取られていて全員死んでいた。死んでいた...シンデイタ、シンデイタ
間に合わなかったのか?
だが、奇跡的にヴィムだけは、僕の魔力をやれば生きていけるらしい。
僕の命であの子が救われるのなら、僕は、僕は...
「僕の魔力を全部やってやるから、生きてくれ!生きてくれよ!」
僕の魔力は全てヴィムのものになって、ヴィムは僕の遺体を抱えて秘密基地に帰る。僕は霊体になっていたので、後ろで見ていたお嬢様のすぐ近くにエンブレムの刻まれたペンダントを渡すと僕は成仏していくはずだったのに...
僕は、目が覚ますと純白の空間の中にいた。




